デバイス植込み後の患者を担当する機会は多いと思いますが、そのリハビリテーションについて理解していますか。
患者がどのデバイスを使用しているのか確認することは大前提ですが、その設定が正しいかどうか疑う人は少ないです。
今回は、あまり知られていないデバイス植込み患者におけるリハビリテーションについて解説していきます。
この記事の対象者は以下の通りです。
- 植込みデバイスについて詳しく知らない人
- 心臓リハビリテーションの注意点がわからない人
- 手術後の流れを知りたい人
この記事を読むことで、デバイス植込み後の患者のリハビリテーションについて理解を深めることができます。
何かわからないことがあればコメントか公式LINEでメッセージを頂ければ対応します。
公式LINEでブログ更新をお知らせしています!登録していない方はぜひ!
それでは、解説していきますね。
植込みデバイスとは
近年は植込みデバイスの発展に伴い、その件数は増加傾向を示しています。
植込みデバイスにはこれだけ種類があります。
- ペースメーカ(PM/リードレスPM)
- 植込み型除細動器(ICD/S-ICD)
- 心臓再同期療法(CRT/CRT-D)
ペースメーカが代表的ですが、実は他にもデバイスは存在し、それぞれ適応や機能が異なります。
各デバイスの役割を理解しておくことは、リハビリテーションを実施するうえで最低限の条件となります。
まずは、運動療法における注意点を学びましょう。
運動中や運動試験における注意点
ここでは、心臓リハビリテーションや運動負荷試験における注意点を解説していきます。
実際にデバイス植込み患者における報告を交えて、以下の項目については知っておくと良いです。
- 安全性
- 頻拍治療設定
- 両室ペーシングの確保
- レートレスポンス機能
それではひとつずつ解説してきますね。
安全性
デバイス植込み患者の心臓リハビリテーションにおける報告では、以下の文献で安全性を保証しています。
ICD植込み症例400例における症候限界CPX(心肺運動負荷試験)において、持続性心室頻拍(Sustained VT)・ショック作動や抗頻拍ペーシング(ATP)は認めなかった。
引用文献:Voss F et a1:Safety of symptom-limited exercise testing in a big cohort of a modem ICD population. Ctin Res Cardio/105(1):53-58,2016.doi:10.「007/sOO392-015-0885-5. Epub 2015Jun 30.
この報告からわかるように、植込みデバイス患者の心臓リハビリテーションは必ずしもリスクが高いわけではないですが、以下については注意が必要です。
- もともと不整脈がある
- 虚血性心疾患の心室ペーシング依存
特に急性期では十分にモニタリングしながら介入するようにしましょう。
頻拍治療設定(ATP)
ショックデバイス(ICD/CRTD)では、心室頻拍(VT)や心室細動(VF)に対する頻拍治療として以下の設定があります。
- VTゾーン
- VFゾーン
これらの設定した心拍数以上で抗頻拍ペーシングやショック作動による治療がおこなわれます。
つまり運動時の心拍数がVT/VFゾーンに到達するような運動負荷は避けるべきであり、介入前に設定値の確認が必要です。
実際に洞性頻脈や心房細動によるレートがVTゾーンに到達しても、デバイス内のアルゴリズムでVTかどうか鑑別診断が行われます。
しかし、VFゾーンはレートが到達すればアルゴリズムは働かずにショック治療が開始されまるため、不適切な運動負荷は絶対に避けなければなりません。
心房細動を有する症例は本当に気をつけましょう。
セラピストが知っておきたい心房細動に関する記事はこちらから
両室ペーシングの確保
心不全入院を予測する多変量解析では、ペーシング率92%が予後予測因子と報告されています。
運動中に両室ペーシング不全(CRT loss)が生じることもあり、心肺運動負荷試験でも以下の理由でCRT lossを認めました。
- 自己心拍数>ペーシングレート
- 運動中に設定AV間隔より自己AV伝導が促進する場合
- UTRを上回る場合
*AV:房室
*UTR:upper tracking rate 自己の心房波を感知して心室ペーシングを追従させる機能
心房細動患者では無酸素性代謝閾値(AT)未満の運動負荷でも両室ペーシングが生じるため、医師に相談して薬剤によるレート管理をしましょう。
また、UTRはATに近い運動負荷で生じるので日常生活レベルではCRT lossは起こらないものの、若年患者に対しては最高酸素摂取量(peak VO2)改善のために高く設定します。
レートレスポンス機能
運動に伴い適切な心拍数増加が起こらないことを変時性応答不全といい、β遮断薬や抗不整脈薬の併用で合併しやすくなります。
変時性応答不全は冠動脈疾患や心不全の予後不良因子であり、レートレスポンス機能により心拍応答が良好になることで運動耐容能が改善した症例を経験することもあります。
レートレスポンスセンサーにはいくつか種類があります。
- 加速度計
- 分時換気量
- CLS
特に心肺負荷試験や心臓リハビリテーションの前には、どのセンサーを使用しているか確認してください。
例えばですが、加速度計をセンサーにしている場合はエルゴメータでは反応が乏しく、トレッドミルなどを選択する必要があります。
レートレスポンスについてはこちらの記事を参考にしてください。
デバイス植込み術後の心臓リハビリテーション
循環器学会におけるデバイス植込み患者の心臓リハビリテーションの推奨クラスⅠを上の図に示します。
基本的には運動耐容能の改善を目的に有酸素運動やレジスタンストレーニング、包括的指導によるQOLの改善は非常に強く推奨されているものになります。
有酸素運動についてはこちらの記事から
つまり、デバイス植込み術後の心不全患者における心臓リハビリテーションはQOLの改善には必要不可欠な位置付けと認識しても良いでしょう。
それでは、デバイス植込み術後の各章について詳細に解説していきます。
デバイス植込み患者の周術期
急性期病院ではデバイス植込み術後からリハビリテーションを開始しますが、実際に担当する場合はどのようにしたら良いのでしょうか。
京都府立医科大学の国立循環器病研究センターのプログラムを参照したプロトコールがガイドラインに掲載されています。
基本的には1週間~10日で退院を目指し、入院中は上肢肩関節の可動域を90度に制限します。
その理由は以下の合併症を防ぐためです。
- リードの移動や脱落
- 創部離開
- ポケット内出血
術翌日から離床を開始し、疼痛やバイタルサインを確認しながら介入してきます。
患者は手術前に医師から合併症について説明を受けており、離床に対して消極的な場合があるので、まずはリハビリの必要性を説明してから介入するようにしましょう。
また、合併症を気にするあまり肩関節の不動化を招いてしまうことは避けたいので、過度な安静は避けるように指導することも必要です。
それでは、ここから各デバイス植込み患者のリハビリテーションについて解説してきます。
ペースメーカ(PM)
ペースメーカは洞不全症候群(SSS)や房室ブロックなどの徐脈性不整脈を対象とするデバイスです。
メカニズムとしてはリードを心房や心室に留置し、電気刺激を感知するセンシング機能や、刺激を送るペーシング機能によって同期性を保ちます。
ペースメーカには作動モードと呼ばれる設定があり、NBGコードで表記されています。
例えば、ペースメーカ植込み患者のカルテに以下の文字列を見かけたことはありませんか。
- AAI
- VVI
- DDD
*A:心房 V:心室 D:心房心室の両方 I:抑制
これらは臨床で多いモードとされており、文字列の位置に意味があります。
- 1文字目 ペーシング部位
- 2文字目 センシング部位
- 3文字目 反応様式
例えばAAIでは心房でペーシングやセンシングが行われ、反応様式は抑制となります。
つまり心房で電気刺激を感知(センシング)した場合には、心房におけるペーシングを抑制するため心電図では自己脈の波形を示します。
ペーシングが行われているかどうかは、ペーシング部位によって異なりますがスパイク波形を確認すれば大丈夫です。
例えばAAIの場合では、P波の直前に基線に対して垂直線があればペーシング波形であると言えます。
ちなみにNBGコードは基本的に3文字で表されますが、4文字目にRが表記されている場合があります。
つまり、4文字目にRが記載されていたらレートレスポンス機能が設定されていると理解してください。
細かいペースメーカ機能についてはこちらの記事を参考にしてください。
それでは、ペースメーカ患者におけるリハビリテーションの進め方を解説していきますね。
実際にはコンディショニングからはじめ、バイタルサインを確認しながら運動療法の提供やADL動作の確認をしていきます。
私はペースメーカ患者を担当する場合は、以下の項目を確認するようにしています。
- ペースメーカの設定、既往歴
- 心電図波形
- 運動負荷に対する心拍応答
基本的には徐脈性不整脈に対して植込みを実施していますが、その心拍応答がペーシングに依存しているかどうかは把握しておきましょう。
ペースメーカには下限設定レートがあり、自己心拍が到達しない場合にペーシングされます。
つまり、下限レートが80bpmで設定されている患者の自己心拍がそれを下回る場合に、80bpmとなるようにペーシング機能が働くと解釈してください。
運動負荷に対してペーシング波形に依存している場合は以下の状態が考えられます。
- 変時性応答不全によるペーシング
- レートレスポンス機能による追従
下限レートやレートレスポンスの有無を把握しておけば、運動療法に対する心電図波形から患者がどのような状態であるか理解することができます。
実際にここまで学んだことを臨床でどのように生かすのか、私の事例を通して解説していきます。
事例1
2年前にペースメーカ植込み術を施行された高齢女性。NYHA Ⅱ-Ⅲ 室内トイレ歩行(約10m)は自立していました。
Overworkによる心不全増悪で入院されましたが、薬物療法により改善を示しました。
ペースメーカ設定:DDDR ペーシング下限レート60bpm
安静時HR:70bpm(心房細動)
リハビリでは10m歩行をすると心電図波形はHR 120bpm(ペーシング波形)を示し、患者は息切れの所見を認めました。
医師と相談してレートレスポンス機能をオフにしたところ、10m歩行において息切れは消失しました。
10m歩行中もHRは90bpm台であり、この症例においてはレートレスポンス機能による頻脈が労作性の息切れを誘発していました。
事例2
こちらは文献による報告になります。
拡張相肥大型心筋症によりCTRD植込み術後の患者に対して運動負荷試験(CPX)を実施した症例。
ペースメーカ設定:DDD ペーシング下限レート 80bpm
CPX結果(DDD):最高酸素摂取量(peak VO2) 11.4mL/kg/min 最高心拍数 80bpm
負荷に応じた心拍上昇が得られず、運動耐容能低下の規定因子であると考えられ、設定をDDDR(レートレスポンス機能追加)で3日後にCPXを再評価。
CPX結果(DDDR):最高酸素摂取量(peak VO2) 14.9mL/kg/min 最高心拍数 116bpm
参考文献 小笹寧子:CRTD・ペースメーカ患者の運動耐容能と至適ペースメーカプログラム
このように、設定を変更するだけで運動耐容能の向上が確認されることもあり、患者の特性に合わせて設定を考慮する必要があります。
循環器学会では、レートレスポンス機能については次のように述べています。
レートレスポンス機能が心不全患者における運動耐容能改善に関わるかどうかについては議論の余地がある。重度の変時性応答不全を認める症例にはレートレスポンス機能を試してみることが推奨される。
引用:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン 2021年改訂版
どちらにせよ患者の症状をよく観察し、医師と相談していくことが重要です。
植込み型除細動器(ICD)
心不全患者における心臓リハビリテーションのエビデンスは確立しており、以下の効果が報告されています。
- 運動耐容能の改善
- 再入院の減少
- QOLの改善
もちろんこれらはICD植込み患者においても同様のことが言えます。
ICDの特徴としては一次性/二次性の致死性不整脈に対するショック作動による治療がおこなわれますが、そのストレスは心身ともに認められます。
一度ショック作動の経験を受けると患者は活動に対して消極的になりやすいため、運動療法の導入は患者指導も含めて効果的であるでしょう。
また、デバイス植込み患者における安全性で説明したように、運動療法におけるICD作動は有意に少ないか変わらないといった報告があります。
モニタリング下でおこなわれる運動療法は実施していく必要がありますが、以下の注意点だけは絶対に守ってください。
ICDではATP治療やVT/VFゾーンが存在すると先述しましたが、VFゾーンに心拍数が到達すると瞬時にショック作動が起こります。
β遮断薬や抗不整脈、アブレーションなどのレートコントロールは十分にされているはずですが、せめてVFゾーンの数値だけでも把握しておいてください。
特に心房細動がある患者は注意が必要です。
VFゾーンはわかりやすくいえば、ショック治療が行われるポイントだと理解しておいてくださいね。
詳細は割愛しますが、基本的にはMode SwitchでDDIRなど抑制がかかるように設定されている場合が多いです。
ICDについての記事はこちらから
心臓再同期療法(CRT/CRTD)
CRTは心房心室の同期性を保つことで自覚症状の軽減、心機能や予後の改善といった効果が報告されています。
低心機能患者では心臓リモデリングが生じると言われており、CRTによる左室径の軽減や左室駆出率(EF)の改善はリバースリモデリングと呼ばれます。
リモデリングについての記事はこちらから
CRT植込み患者における効果の報告として以下のものが挙げられています。
- 左室リバースリモデリング
- LVEFの増加
- 6分間歩行距離の改善
- Peak VO2の改善
- NYHAクラスの改善
- QOL改善
- 再入院/入院率の改善
これらの良好な反応を示すCRT植込み患者を総称してCRTレスポンダーと呼ばれます。
しかし、注意点としてはCRT植込みだけで改善する症例ばかりではないということです。
心不全は運動療法、薬物療法、栄養療法など包括的な介入により改善を示します。
これはCRT植込み患者でも同様であり、適切は負荷における運動療法やADL指導は患者状態を改善させる一因でしかないということを覚えておいてください。
心不全、CRTにおける記事はこちらから
まとめ
植込みデバイス患者の心臓リハビリテーションについて解説しました。
各デバイスによって適応や機能が異なるので、介入前に情報を収集しておきましょう。
コメディカルから医師へ設定について相談することも必要だと思いますので、積極的に他職種とコミュニケーションが図れると良いですね。
セラピスト関連の記事はこちらからどうぞ
公式LINEでブログ更新をお知らせしています!登録していない方はぜひ!
コメント