【がん悪液質とリハビリテーション栄養】がん患者のリハビリを見直す(文献抄読)

がん

近年、がん悪液質やリハビリテーション栄養といった言葉が注目されてきています。

そこで、今回はがん患者の嚥下障害におけるリハビリテーション栄養の視点を踏まえた文献を紹介していきます。

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文献紹介

文献:がんの嚥下障害におけるリハビリテーションと臨床栄養

著者:浜松市リハビリテーション病院 リハビリテーション科 大野綾

出版:Jpn J Rehabil Med 2021;58:896~904

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はじめに

がん患者は腫瘍や治療の影響による栄養障害だけでなく、筋肉量減少をきたす悪液質も問題となり、サルコペニアへと発展します。

サルコペニアとは、筋肉量が減少して身体機能低下を呈すること

サルコペニアは摂食嚥下障害になる可能性があり、さらなる栄養障害を引き起こる悪循環をきたしやすいです。

栄養管理なしにリハビリテーションのみを提供してしまっても、かえって悪化させてしまうリスクがあります。

がん患者の嚥下障害の診断においては、リハビリテーション栄養の視点が非常に重要となるでしょう。

がん患者の栄養障害

まず、がん患者の栄養障害について、疫学や原因について触れてみたいと思います。

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栄養障害の疫学

がん患者の40~80%が栄養障害により体重減少をきたしていると言われており、その割合は疾患ごとに異なります。

・乳腺、血液疾患  31~40%

・大腸がん、肺がん 54~64%

・胃がん、膵がん  80%

特に胃がん・膵がんの30%は10%以上の体重減少を伴う高度な栄養障害に陥っています。

栄養障害は下記に示すようにさまざまな影響を与え、結果的にQOLと生命予後に関わります。

・治療への耐性

・治療効果

・副作用、合併症リスク

リハビリテーションの経過のみでなく、患者の治療経過にも着目する必要があります。

栄養障害の原因

大野綾:がんの嚥下障害におけるリハビリテーションと臨床栄養

上記に示す図は栄養障害の原因であり、さまざまな原因が重複して影響を及ぼすことで栄養障害の発生率は増加しています。

がん患者の栄養障害の原因は大きく2つに分けられます。

・CAWL:cancer-associated weight loss(悪性腫瘍に伴う体重減少)

・CIWL:cancer-induced weight loss(悪性腫瘍誘発性体重減少)

実際の臨床では両者の要素が併存していることが多いです。

それでは、より詳細に説明していきます。

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悪性腫瘍に伴う体重減少(CAWL)

CAWLはおおよそ2つの要因に分かれます。

・腫瘍病変によるもの

・治療に伴うもの

腫瘍病変によるものとは、頭頸部悪性腫瘍や脳転移による嚥下障害だけでなく、消化管転移などによるがん性腹膜炎がもたらす食物の通過・吸収障害、嘔吐、食思不振を指します。

治療に伴うものとは、手術・化学療法・放射線療法により疼痛や食思不振、下痢などの消化管症状のことです。

ここでいう下痢とは、コリン作動性下痢と粘膜障害性による遅延性の下痢を指します。

他にも、味覚障害や鎮痛薬や向精神薬による傾眠由来の嚥下障害も問題となるでしょう。

悪性腫瘍誘発性体重減少(CIWL)

おもにがん悪液質によりさまざまな要因が絡んで体重減少をきたします。

・食思不振

・基礎エネルギー代謝の亢進

・糖質、蛋白質、脂質代謝異常

・脂肪量、筋肉量の減少

がん悪液質については次の項目で説明していきます。

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がん悪液質

がん悪液質という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

ここでは、がん悪液質の定義や病態について解説していきます。

がん悪液質の定義・概要

がん悪液質は、2011年にEPCRC(European Palliative Care Research Collaborative)によって次のように定義されています。

著しい骨格筋量減少(脂肪量の減少の有無に関わらず)を特徴とする、複合的代謝障害の症候群であり,通常の栄養サポートでは完全に回復できず進行性の機能障害をもたらす。病態生理学的には経口摂取の減少と代謝異常により負の蛋白・エネルギーバランスを特徴とする

参考文献:Definition and classification of cancer cachexia:an international consensus. Lan- cet Oncol 2011

がん患者は診断時に30%、進行期においては80%とほとんどが悪液質あるいは体重減少をきたしていると言われています。

悪液質は予後悪化因子であり、治療が停滞してしまう患者も見たことがあるのではないでしょうか。

・化学療法や放射線療法への耐性低下

・抗がん剤治療の効果減弱

・術後合併症

なかには死に至る患者もいるため、注意深く接していく必要があります。

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がん悪液質の病態

がん悪液質の基本的病態は以下の通りです。

・慢性的炎症性変化

・代謝異常

これらの基本的病態を背景に、どのような症状を認めるのでしょうか。

食思不振

炎症性サイトカインが脳血流関門を通過し、視床下部などの食欲に関与するシステムに影響を及ぼすことで生じると言われています。

サイトカインは腫瘍の成長を促進し、肝臓の薬物代謝を障害するため、抗がん剤の副作用が強まることで食思不振が長期化します。

基礎エネルギー代謝亢進

がん患者の半数程度が次の関係性になると言われています。

安静時エネルギー消費量(以下:REE)>基礎エネルギー予測値(以下:BEE)

基礎エネルギー代謝が亢進している場合、REEが100~200kcal/日程度上昇します。

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代謝異常

がん悪液質では、以下の代謝異常を認めます。

・糖代謝異常

・蛋白代謝異常

・脂質代謝異常

がん悪液質のステージ分類

EPCRCの悪液質ガイドラインでは、重症度により以下の3段階に分類されています。

・前悪液質(pre-cachexia)

・悪液質(cachexia)

・不可逆性悪液質(refractory-cachexia)

早期の段階(pre-cachexia)で診断して適切な栄養管理や運動指導により、悪液質の進行を遅らせることが大切になります。

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サルコペニアと嚥下障害

ここでは、サルコペニアと嚥下障害の関係性について解説していきます。

サルコペニアによる嚥下障害

サルコペニアは筋肉量減少に加え、以下の2つが診断に必要とされています。

・筋力低下

・身体機能低下

活動を主体とするリハビリテーション医療においては欠かせない概念であり、嚥下障害としても近年注目されています。

しかし、嚥下筋は廃用性萎縮をきたしにくいと考えられているため、全身骨格筋のサルコペニアと直結して結論を出してしまうことは避けましょう。

がん患者のサルコペニアと嚥下障害

がん患者の嚥下障害の主な原因としては、以下のものが挙げられます。

・頭頸部がん、食道がん

・脳腫瘍の原発

・手術、放射線治療

現時点(2021年)でがん患者において、サルコペニアが嚥下障害の原因であるといった明らかなエビデンスは散見されません。

しかし、悪液質などで嚥下筋が萎縮し、嚥下障害の原因や悪化因子になる可能性は十分に考えられます。

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がん患者の嚥下障害とリハビリテーション栄養

がん患者にはサルコペニアの問題が付き物になることが多く、リハビリテーション栄養の視点と方法が不可欠になります。

早期より嚥下障害の出現を予測し、症状の悪化を防ぐためにも適切な治療が行われるべきです。

リハビリテーション栄養はがん患者のどの時期においても必要になります。

リハビリテーション栄養ケアプラン

ここでは、リハビリテーション栄養に必要なケアプランについて説明します。

摂取エネルギー

初期エネルギーを25~30kcal/kgで設定し、その後は栄養状態の推移を確認しながら患者個々にカロリーを調整していきます。

しかし、悪液質になるとカロリー摂取を増やしても体重増加を図ることは難しいため、時期に合わせた栄養管理が重要です。

・前悪液質:栄養障害の予防

・悪液質〜不可逆性悪液質:体重の維持

終末期になるとエネルギー必要量が減少します。

そのため、過度な栄養・水分負荷は四肢の浮腫や胸腹水を増加させ、患者にストレスをかけることになってしまうので注意が必要です。

投与経路

原則として可能な患者には経口摂取が望ましいですが、不十分な場合には補助として経腸栄養剤の経口投与を実施します。

経口摂取が困難な場合には経管栄養を行い、嚥下リハビリテーション治療を併用しましょう。

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摂食・嚥下リハビリテーション

時期に沿った摂食・嚥下リハビリテーションについて解説していきます。

予防的・回復的

頭頸部がんでは嚥下障害から栄養障害を合併しやすく、栄養療法としては1日に以下の数値を目標とすることが推奨されています。

・摂取蛋白量1.2~1.5g/kg

・エネルギー摂取量30kcal/kg

化学療法や放射線療法の副作用で摂食嚥下障害を認めることが多く、予防的な口腔ケアで衛生状態を保つことは重要です。

可能な食事方法を模索し、補助として経腸栄養剤を使用することで栄養摂取を維持しましょう。

維持的・緩和的

がんの進行にともない、サルコペニアや悪液質より嚥下障害は重症化していきます。

全身状態が悪化しても、患者自身もしくは家族の希望を尊重し、QOLを重視した関わりが必要です。

この時期は摂取量を考えず、経口摂取の質を高められるように対応します。

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リハビリ栄養について学ぶ

近年注目されているリハビリ栄養ですが、より学びたい人は下に紹介する著書を参考にしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

がん患者のリハビリテーション栄養について文献を交えて解説しました。

特に、がん悪液質では安静時エネルギー消費量が増加しているため、運動療法による負荷量の設定には注意が必要です。

がん患者に関わる医療従事者は、患者の栄養状態にも注目してみてくださいね。

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