睡眠時無呼吸症候群(SAS)について聞いたことがあるでしょうか?
実は放っておくとさまざまな病気を発症するリスクがある危険な病気です。
今回はその中でも、心不全を中心に睡眠時無呼吸症候群について解説していきます。
この記事を読んでわかること
- 睡眠時無呼吸症候群の概要
- 心不全との関連性
- リハビリセラピストの関わり方
何かわからないことがあればコメントを頂ければ対応します。
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睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に間欠的に上気道が閉塞して気流が遮断される疾患です。
これらの睡眠呼吸障害について解説する前に、3つの用語を確認しておきましょう。
睡眠時無呼吸症候群はAHIが5以上のものをいいます。
睡眠時無呼吸症候群の分類
睡眠時無呼吸症候群は以下の4つのタイプに分類されます。
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
- 中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)
- 睡眠関連低換気障害群
- 睡眠関連低酸素血症障害群
今回は上気道閉塞に起因するOSASと、呼吸中枢からの呼吸ドライブの消失によるCSASについて解説していきます。
閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
OSASは主に上気道閉塞に起因するタイプです。
上気道の解剖学的要因のみならず、上気道の筋活動や呼吸調節などの機能的要因のバランスで発症する多因子疾患と捉えられています。
OSASの病態を理解するために病因モデルとして、以下の4つのリスクファクターで構成されています。
- 呼吸調整系の不安定性(高いループゲイン)
- 上気道の代償性低下(咽頭開大筋の反応低下)
- 解剖学的上気道径の狭小化
- 低い覚醒閾値
肥満や性別などの個人因子やレム睡眠による筋活動の影響であったり、換気調節システムの不安定性といった機能面も関与しています。
中枢型睡眠時無呼吸症候群(CSAS)
CSASは呼吸中枢からの呼吸ドライブに起因するタイプです。
左室機能が低下した心不全や脳卒中患者で認められるものであり、さらに加齢や男性は危険因子として報告されています。
- 覚醒時の換気亢進により動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が低下
- ノンレム睡眠中の無呼吸閾値が低く無呼吸が誘発
- 無呼吸によりPaCO2が増大し、換気の促進により覚醒(睡眠の分断)
- PaCO2が低下し、睡眠に陥ると再び無呼吸へ(繰り返し1へ)
この繰り返しにより循環器疾患の引き金になることも多く、周期的な呼吸変動であるチェーン・ストークス呼吸(CSR)となることがあります。
睡眠時無呼吸症候群の症状
睡眠時無呼吸症候群に認める症状は以下の通りです。
- 不眠
- いびき
- 日中の眠気
- 集中力低下
- 全身倦怠感
特に他者が指摘するほどのいびきや、運転中に眠くなる人は要注意です。
さらに、循環器疾患や治療抵抗性の高血圧、肥満患者などはスクリーニング検査を行うべきでしょう。
それでは、睡眠時無呼吸症候群の検査にはどのようなものが用いられるのでしょうか。
睡眠時無呼吸症候群の診断・評価
診断については先述した通り、AHI≧5で陽性となります。
他にも、以下に示すようなスクリーニング検査があります。
- ESS(Epworth Sleeping Scale)
- PSQI(Pittsburg Sleep Quality Index)
- STOP-Bangテスト
各テストについて解説していきます。
ESS
上記に示す8つの状況において4段階で眠気の程度を答える評価であり、11点以上で睡眠時無呼吸症候群を疑います。
運転中の質問項目が存在するため、入院患者へ使用する際は注意が必要です。
PSQI
PSQIの総得点は0~21点であり、6点以上で睡眠に障害がある群としています。
評価は以下の7つのコンポーネントに分類、得点化されます。
- 睡眠の質
- 睡眠時間
- 入眠時間
- 睡眠効率
- 睡眠困難
- 睡眠薬の使用
- 日中の眠気
特典の算出方法がやや複雑であるため、Excelなどで自動計算されるように設定しておくと良いでしょう。
STOP-Bangテスト
STOP-Bangは上図8つの項目をはい/いいえで回答する質問票です。
「はい」が1点、「いいえ」が0点であり、3点以上で睡眠時無呼吸症候群のリスクを認めます。
それぞれの点数でリスク重症度が分類されています。
- 0-2点 :軽症
- 3-4点 :中等度
- 5点以上:高度
ちなみにSTOP-Bangテストは各項目の頭文字を取って付けられています。
簡易的に評価できるため、入院中の患者に用いることができます。
睡眠時無呼吸症候群の治療方法
睡眠時無呼吸症候群の一般的な治療法は持続性陽圧呼吸療法(CPAP)です。
循環器ガイドラインにおいても、心不全を合併するOSASに対してガイドラインに準じたCPAP治療は推奨クラスⅠとされています。
持続的に陽圧管理にすることで上気道閉塞を防ぎ、無呼吸や低呼吸を防ぐことで症状を改善させます。
CPAP装着によりさまざまな効果が報告されています。
- 睡眠中のSpO2上昇
- 睡眠中の血圧低下(上昇の抑制)
- 糖代謝の改善
- 日中の傾眠や倦怠感の改善
- 睡眠の質向上(同居家族含め)
睡眠時無呼吸症候群による随伴症状は交感神経活性によるものが多いです。
検査の結果で医師より治療適応と判断された場合には、保健適応でCPAPを受けることができます。
睡眠時無呼吸症候群の治療はCPAPだけでなく、他にも肥満改善や節酒、適度な運動指導や禁煙が挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群と心不全
睡眠時無呼吸症候群でもOSASは心血管疾患に多く合併することが報告されていますが、実は心不全患者においては50%前後と高率です。
OSASによる無呼吸は心不全の発症や進展させる危険因子であり、その影響を以下に示します。
- 無呼吸による低酸素血症
- 交感神経活動の亢進
- 内皮機能障害
- 胸腔内陰圧による左室後負荷増大
また、心不全増悪による体液貯留で喉頭浮腫が出現する場合にもOSASが出現しやすくなります。
つまり、OSASにより特に交感神経活動の亢進が心不全の進展リスクとなり、発症した場合にはOSASを増悪させる可能性も有しています。
睡眠時無呼吸症候群の文献報告
ここでは、睡眠時無呼吸症候群における文献報告を紹介していきます。
糖代謝
睡眠時無呼吸症候群では血糖値の上昇、血糖変動幅の増大を示すことが明らかとなり、以下のメカニズムが考えられています。
- 交感神経活動が亢進
- 肝臓でグリコーゲンの分解および糖新生が促進され、血中のブドウ糖増加
- 副腎髄質でカテコラミンがより分泌、肝臓のブドウ糖産生が促進
- 膵臓ではα受容体刺激でインスリン分泌の低下
- 二次的にβ受容体刺激が有意になりグルカゴンが分泌
- 脂肪組織、骨格筋、末梢血管の働きもあり血糖値が上昇
交感神経活動の亢進が糖尿病の発症に関わっていることが、複数のコホート研究で証明されています。
血圧
睡眠時無呼吸症候群における睡眠中の血圧上昇、夜間血圧降下度の低下における要素は以下の通りです。
- 交感神経活動の亢進
- 全身性の炎症
- 酸化ストレス
- 内因性の血管作動
- 内皮機能不全
特に関与が強いのは交感神経活動の亢進だと考えられています。
不整脈
睡眠時無呼吸症候群を有する患者では、不整脈の中でも心房細動の合併率は50%と極めて高率であり、強い関連性が指摘されています。
心房細動を誘発する機序は心不全の進展と類似していますが、改めて説明します。
- 無呼吸による低酸素血症、胸腔内圧の変動
- 酸化ストレス、交感神経活性、後負荷増大
- 血圧上昇、炎症、内皮障害、心筋障害
- 心房細動をはじめ心血管リスクの増大
心房細動による心房負荷が継続すると、心臓リモデリングや僧帽弁・3尖弁不全へと発展していきます。
心房細動、心臓リモデリングに関する記事はこちらから
https://ptkei-business.biz/2022/04/12/heart-failure-3/
https://ptkei-business.biz/2022/04/09/cardiovascular/
睡眠時無呼吸症候群に対するセラピストの関わり
日中の眠気や倦怠感から積極的はリハビリの介入が困難な患者を経験したことはありますか。
脳血管疾患など意識レベル低下を直接説明できる病態が明確でないときは、睡眠時無呼吸症候群を疑っても良いでしょう。
- いびき/無呼吸の確認(同室者、看護師より聴取)
- 夜間SpO2の低下
- 質問票によるスクリーニング
必要であれば上記を参考にし、医師と相談して治療方針を決定していくことが望ましいです。
回復期患者における睡眠時無呼吸症候群の症例報告も認めています。
睡眠時無呼吸症候群により日中の活動が低下して患者に対して、CPAP導入が日中の眠気や倦怠感の改善に影響したことで積極的なリハビリテーション治療が可能となった。
本田有正:持続陽圧呼吸療法(CPAP)導入により覚醒および夜間頻尿が改善した脳卒中患者の1例
睡眠時無呼吸症候群を疑った場合は積極的に医師に相談しましょう。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群の種類や症状について解説しました。
循環器や脳卒中におけるCSAS/OSAS潜在患者は一定数存在するでしょうし、スクリーニングで評価することは必要であると感じます。
また、日中活動量が減少している患者にCPAPを導入することで活動性の向上に繋がればQOLの改善が期待できます。
心不全患者においても症状を進展させないために、睡眠時無呼吸症候群との関連について知っておきましょう。
セラピスト関連の記事はこちらから
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