コロナウイルス(COVID-19)の感染は留まることを知らず、現在も拡大しています。
無症状から重症者までさまざまですが、重症化した場合は人工呼吸器やECMOが必要になる場合があります。
人工呼吸器装着の重症コロナウイルス患者には、どんなリハビリをするのでしょうか。
急性期病院に勤める理学療法士が解説していきます。
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コロナウイルスとは
コロナウイルスは肺を主体とするウイルス感染症であり、呼吸器症状がメインです。
しかし、呼吸器症状だけでなく、他にも様々な報告が散見されています。
・脳梗塞などの中枢神経症状
・味覚などの末梢神経障害
・うつなどの心理的問題
・健忘などの高次脳機能障害
つまり、呼吸器症状だけでなく、多面的に関わっていく必要があります。
コロナウイルスの疫学
コロナウイルスではさまざまな症状を認めますが、その機序は解明されているのでしょうか?
呼吸不全
酸素化が保たれなくなり、重症例では人工呼吸器が必要なります。
原因として、サイトカインストームにより両側性にびまん性浮腫、肺胞中隔血管に血栓をきたします。
感染の量が多くなると、炎症の量も多くなり、サイトカインも大量に放出されます。それをサイトカインストーム(サイトカインの稲妻、サイトカインの暴走、免疫暴走)と呼んでいます。
引用:大宮エヴァグリーンクリニック
また、漿液性分泌物が多く肺コンプライアンス低下のため、吸気努力性も亢進することで仕事量増大。
重症肺炎はARDS(急性呼吸窮迫症候群)へ進行し、致死率が高くなります。
脳血管障害
サイトカインストームの関与により、血管内皮障害を起こすことが大きな要因と想定されています。
重症例では深部静脈血栓の合併が多く、肺塞栓により呼吸不全に至ってしまうケースも。
コロナウイルス感染者の脳梗塞発症予後は、通常脳梗塞患者と比較して9倍予後不良と言われています。
しかし、現在では感染と脳卒中の発生頻度に有意な相関は認めていないと報告されていました。
髄膜脳炎、脳症
脳炎や脳症といった病気は聞いたことがありますか?
髄膜炎・脳炎は、脳や脊髄、これらを包む髄膜に炎症がおき、症状としては発熱、頭痛、嘔吐、反応の低下、けいれんなどがみられます。原因としてはウイルスや細菌などの微生物の感染性、自己の免疫システムが炎症を起こす自己免疫性、薬剤性や腫瘍性などがあります。
引用:公益財団法人 田附興風会 医学研究所 北野病院
コロナウイルス感染者では、24歳の髄膜脳炎の症例が報告されました。
・血液脳関門の異常
・サイトカインストーム、免疫系の異常
脳症ではSARS-C0V-2の脳血管内皮への感染から、上記異常が主体となって血管周囲の炎症性変化と脳浮腫をきたしたことが想定されています。
嗅覚、味覚障害
嗅覚、味覚障害が起きる機序は完全に解明されていません。
嗅覚障害は、嗅上皮に感染し、炎症が波及して近傍に存在する神経系末端の機能異常を招くと予想されています。
味覚に関しては、舌上皮細胞感染による味蕾細胞への影響ではないかと考えられています。
感染後神経症状
認知や高次脳機能障害が残存する報告があります。
・遂行機能障害
・注意力低下
・認知症
サイトカインストームと感染による血液脳関門破綻が原因で、サイトカインの脳内流入による炎症の持続が考えられています。
リスク因子
中等症から重症患者の経過として、発症7-10日前後で増悪し、増悪期は数時間単位で酸素需要が増大します。
重症化するリスク因子としては、以下のものが挙げられます。
・男性
・高齢者
・糖尿病
・高血圧症
・心疾患
また、50歳以上で基礎疾患がある患者は致死率が高いと報告されています。
重症コロナウイルスの合併症
コロナウイルスの主症状は呼吸不全ですが、長期間による罹患で合併症を呈します。
ARDS(急性呼吸窮迫症候群)
非特異的な炎症が肺胞領域に生じることにより発症する透過性亢進型肺水腫としています。
ARDSには定義がいくつかあります。
・発症時期が呼吸状態の悪化から1週間以内
・単純X線画像における両側性の透過性低下
・心不全や体液過剰で説明できない呼吸不全
中等症のコロナウイルス肺炎は7日前後で増悪するため、ARDSへ進行することがあります。
リハビリテーションは重症肺炎と大きく変わらず、酸素化の改善を目的に介入します。
VILI(人工呼吸器関連肺損傷)
呼吸器の設定を強化することで起こる肺損傷をいいます。
重症呼吸不全では酸素化が保たれないだけでなく、肺病変の進行による脆弱化が原因です。
患者の過剰な努力性自発呼吸により、経肺圧が上昇して自己肺損傷を生じる場合があり、これをP-SILIと呼びます。
PICS(集中治療後症候群)
ICU患者がICU在室中あるいはICU退出後、退院後に生じる運動機能・認知機能・メンタルヘルス障害として認識されています。
メンタルヘルス障害には不安やうつ症状、PTSD(外傷後ストレス障害)があり、いずれも高い罹患率と症状の遷延が問題です。
ICU-AW
ICU在室中の重症患者が併発する神経や筋の機能障害をいい、その対策が注目されています。
敗血症のような重症患者では高率で合併することから、人工呼吸器管理が48時間を超える患者であれば積極的にICU-AWの合併を疑います。
感染対策
感染管理認定看護師が在籍する場合は、その指導の下、Personal Protective Equipment(以下:PPE)の着脱訓練を実施しましょう。
患者への介入時に、いくつかの注意点や工夫があります。
・患者のマスク着用
・ゾーンの配置(レッド・イエロー・グリーン)
・介助は側面で実施
・記録などはグリーンゾーンで実施
・レッドゾーンとの連絡はトランシーバー
2人以上で介入する場合は、レッドゾーンの人員は最小限に留めましょう。
段差訓練などは、廃棄できる古雑誌を活用している施設もあります。
急性期リハビリテーション
重症コロナウイルス患者に対して、いったいどのようなリハビリをするのでしょうか。
ひとつずつ紹介していきます。
腹臥位療法
人工呼吸器を装着している重症肺炎では、腹臥位療法を実施しています。
肺胞リクルートの改善が目的ではありますが、体位ドレナージ効果も期待できます。
WHOでは、12-16時間の腹臥位を推奨しています。
関節可動域訓練
人工呼吸器管理では、体動や努力呼吸による呼吸仕事量を軽減するために鎮静がかけられます。
鎮静により関節の不動が生じ、筋の短縮による可動域制限を生じます。
特に足関節の背屈制限は、立位や歩行を進めるうえで制限因子となるため、可動域の維持は重要です。
モビライゼーション(離床・運動療法)
鎮静解除でP/F値が200mmHg以上となり、循環動態が安定すれば、積極的なモビライゼーションに移ります。
早期モビライゼーションは人工呼吸器不要期間を増加させます。
しかし、強すぎる負荷は筋分解を促進するため、強度よりも頻度を優先し、徐々に座位保持、立位保持訓練へ移行しましょう。
メンタルヘルスアプローチ
隔離期間は面会や行動禁止などのストレスフルな環境により、見当識やメンタル低下が懸念されます。
そのため、通常の訓練だけでなく、ストレスを緩和させるような工夫も必要です。
・ICUダイアリーの作成
・ストレス発散様の運動(ボクシングなど)
・タブレットを使用したビデオ面会
精神面へのアプローチだけでなく、訓練意欲の維持にも役立ちます。
リハビリテーションの報告
急性期の介入による、重症コロナウイルスの報告が増えてきました。
リハビリ介入における効果を紹介します。
隔離中のリハビリテーションには直接介入とリモート介入があるが、転倒リスクがある症例においては直接介入が必要。隔離中からの早期介入で運動機能の改善が見られた。
文献:井上桂輔 et al COVID-19による隔離中に筋力低下を呈した症例に対する早期理学療法介入の経験
発症から51日目で当院へ転院したが、入院直後からの介入により、回復期病棟転入早期から運動耐久性練習の実施を可能にした。
文献:井上桂輔et al COVID-19による重症肺炎により長期体外式膜型人工肺療法を離脱後の隔離中から理学療法介入した一例
COVID-19重症肺炎症例に対し、急性期より呼吸理学療法と離床を組み合わせることで、呼吸・筋力・動作能力の改善効果が明らかとなった。
文献:直井俊祐 et al ICU-AWを呈した新型コロナウイルス重症肺炎症例に対する急性期からの呼吸リハビリテーション介入の効果
救急・集中治療領域の作業療法の有用性として、ICUにおける作業療法のシステマティック・レビューでは、せん妄の改善、鎮静薬使用の減量、筋力の改善、入院日数およびICU在室日数の短縮が示されている。
文献:藤本侑大 et al 急性期の重症呼吸不全における作業療法士の役割
急性期早期におけるリハビリテーションの介入効果は多く散見されます。
感染対策を徹底し、適切なリハビリテーションの提供が重要です。
呼吸リハビリテーションの勉強方法
呼吸リハビリテーションの勉強には文献や専門書の活用が不可欠です。
おすすめの著書を紹介しているので、よければ参考にしてください。
まとめ
急性期コロナウイルス感染患者におけるリハビリテーションについて紹介しました。
感染対策を徹底して隔離中から介入することは、患者の機能予後を改善させる効果があります。
これからも感染者は増加する可能性があるため、常に更新される知見を参考に、適切な医療を提供していきたいですね。
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