医療従事者として患者に関わる場面は多く、理学療法士である私はリハビリテーションの提供だけでなく患者指導を実施することもあります。
こちらが良かれと思って一方的に指導していても、患者側がその気にならなければ、その指導の効果は希薄となってしまうでしょう。
そこで、行動変容や動機づけについて考えてみました。
患者指導で効果を発揮するだけでなく、日常生活のコミュニケーションにも活用できるので、ぜひ参考にしてみてください。
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○ この記事を読んでわかること
- 行動変容
- ABC分析
- 応用行動分析(ABA)
- ABC分析
はじめに
私は理学療法士として心臓リハビリテーション(心リハ)を患者に実施しています。
心リハは以下に示すように、非常に多面的かつ包括的プログラムです。
- 医学的評価
- 患者教育
- 運動療法
- 疾病管理
- カウンセリング
ところが、患者に運動療法を提供、指導したところで行動は変わらないといった報告も見られます。
その中で今回は、行動変容と動機づけについて解説していきます。
運動療法の継続による行動変容
運動療法の効果は多くの研究で述べられています。
心リハを実施することで心リハ実施期間後も行動変容した可能性がある一方で、心リハ実施期間後は身体活動量が増加しなかったといった報告もあります。
これらは適切な患者教育がなされていなかった可能性がありますが、このような事例はどのようにアプローチしていくべきでしょうか。
動機づけ
人が行動を起こすときには、何かしらの動機が存在します。
英語ではmotivationと表記され、日常会話でもよく使われているでしょう。
- 「喉が渇いたから」水を飲む
- 「痩せたいから」運動する
詳細は割愛しますが、原始的な欲求(情動)があって行動に移すためのプログラムが脳で構築されていきます。
その動機づけには大きく2つに分けられます。
- 外発的動機づけ
- 内発的動機づけ
両者の違いを解説していきます。
外発的動機づけ
外発的動機づけとは、「行為そのものではなく、他者の関わりや影響、報酬などによって生み出されたもので行動すること」です。
外的な力で動機づけられ、目的が不明確な状態です。
○ 外的な力の一例
- インセンティブ
- 罰則
- 強制
外発的動機づけは目的意識が低く、負のきっかけ(気分や身体状況の変動など)で簡単に止めてしまう可能性があります。
内発的動機づけ
内発的動機づけとは、「好奇心や関心など、患者の内面から生み出される欲求に起因して行動すること」です。
多くは自発的な感情で行動が促されるので、継続が非常に得られやすいものになります。
- 人を楽しませたいから芸を学びたい
- おしゃれが好きだから痩せるために運動したい
基本的な欲求があって、それ自体が動機づけとなって行動にともなっていることがわかりますね。
外発的動機づけ vs 内発的動機づけ
両者のメリット・デメリットを下に示します。
外発的動機づけよりも内発的動機づけの方が良いのでは?と思う方も多いでしょう。
実際には外発的動機づけでも継続して行動できる方も存在するため、一概に内発的動機づけが良いと言い切ることはできません。
それでは、外発的動機づけについてもう少し深掘りしていきましょう。
外発的動機づけ

中野善之ら:運動療法を継続するための行動変容、動機づけの支援
上図は外発的動機づけを4段階に細分化し、心情の変化(連続性)を表しています。
自律性の低い順(外的調整→統合的調整)から段々と内面化(内在化)していくことがわかりますね。
それでは、各調整スタイルについて解説していきます。
外的調整
一般的によく言われている外発的動機づけの典型例であり、外部からの報酬や罰則などの外的な力を動機として、自己決定がない状態です。
取り入れ的調整
周囲の人の期待に応えるために行動することであり、名誉や自尊心を保とうとする状態です。
行動そのものには価値を感じられず、義務感などで行動します。
わずかには自律的とも言えますが、完全にその行動を受け入れているわけではありません。
同一視的調整
取り入れ的調整と比較して、より一層自己決定が積極的に進んだ状態です。
行動自体に価値を見出し、それが自分にとって大切だと認識しています。
必要性を感じてやや自律的であるため、モチベーションの源泉は内的でしょう。
統合的調整
自分自身のために望んで行動する状態です。
わかりやすくいうと、課題とその人自身の価値観が一致しており、葛藤もなく行動を優先することができます。
自己決定性は外発的動機づけの中で最も高いです。
応用行動分析(ABA)とABC分析
指導した通りに患者が行動をしなかったとき、次のように感じてしまうことはありませんか?
- やる気がない
- 意思が弱い
- そういう性格だ
安易に原因を患者に向けてしまうと、行動変容に導くのは難しくなります。
そこで、応用行動分析(ABA)の考え方を用いてアプローチすることをおすすめします。
わかりやすい例を挙げます。
運動を継続できない患者
×やる気がない
○過度な運動内容
もちろんやる気が問題の場合もありますが、必ずしもそればかりではなく、環境(この場合では課題内容)の影響も考慮するべきですよね。
この応用行動分析方法として、ABC分析を用いるとわかりやすいです。
A:先行刺激(Antecedent stimulus)
B:行動(Behavior)
C:後続刺激(consequent stimulus)
各頭文字をとってABC分析と呼ばれており、それぞれがどのように働いているのか分析するものです。
先行刺激は行動に先立ち、行動のきっかけとなる環境刺激を指します。
それによって引き起こされた行動から与えられた応答が後続刺激です。
関係性をわかりやすく図に示してみましょう。
例えば私(理学療法士)が患者に運動指導を実施します(先行刺激)。
患者が継続して運動(行動)を続けた結果、体力や筋力の向上が見られ、私は患者に正のフィードバックをします(後続刺激)。
患者は運動(行動)することで得られる「良い結果が出た」「誉められた」などの後続刺激によって、次の応答(行動)が変わります。
強化:後続刺激によって行動が増える
弱化:後続刺激によって行動が減る
弱化は、例えば運動(行動)をしたにも関わらず、「筋肉痛が出た」「称賛がない」などの負の後続刺激が原因になることが多いです。
これらは患者指導だけでなく、後輩指導、子育てなどあらゆる場面で活用できるので、身に付けておくことをおすすめします。
よく言われている先行刺激や後続刺激の一例を紹介します。
特に、後続刺激の強化・弱化の要因になり得る項目は押さえておきたいですね。
参考文献・著書
中野善之ら:運動療法を継続するために行動変容、動機づけの支援
掲載先: JJCR 第28巻 第2号 2022年
まとめ
今回は、医療従事者が患者指導をするときに役立つ、行動変容や動機づけの支援について解説しました。
指導通りに患者が行動できない場合、必ずしもその原因は患者側だけではありません。
患者がとる行動を決定している後続刺激を分析し、環境に対して介入することで行動変容へ導くことは可能です。
このことを応用行動分析(ABA)と呼び、その分析方法として活用されるのがABC分析です(少し紛らわしいですね)。
患者指導を中心にお話ししてきましたが、子育てなど日常生活においても活用できるスキルであるため、ぜひ以下の著書なども合わせて身に付けてほしいです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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