CPX(心肺運動負荷試験)において、心血管疾患患者の運動処方を容易に設定することができ、安全に心臓リハビリテーションを実施することができるようになりました。
しかし、CPXは普及しているといっても、いまだに導入されていない施設は多いです。
さらに、超高齢者や重症患者など、CPXを実施できない患者は一定数存在し、そのような患者に対する運動負荷量の設定に難渋しているセラピストの声をよく聞きます。
そのため、今回はCPXによる運動処方がなくとも、比較的安全に心臓リハビリテーションを実施するための運動負荷量の設定について解説していきます。
なお、CPXについて学びたい方は以下の著書がおすすめです。
☆ この記事を読むメリット
CPXがなくても、リスク管理して心血管疾患患者の運動療法を実施できる
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心臓リハビリテーションとは
リハビリテーションと聞くと、一般的な運動をイメージする人が多いのではないでしょうか。
日本心臓リハビリテーション学会では、心臓リハビリテーションを以下のように定義しています。
心臓リハビリテーションとは、心血管疾患患者の身体的・心理的・社会的・職業的状態を改善し、基礎にある動脈硬化や心不全の病態の進行を抑制または軽減し、再発・再入院・死亡を減少させ、快適で活動的な生活を実現することを目指して、個々の患者の「医学的評価・運動処方に基づく運動療法・冠危険因子是正・患者教育およびカウンセリング・最適薬物療法」を多職種チームが協調して実施する長期にわたる多面的・包括的プログラムをさす。
日本心臓リハビリテーション学会
要約すると、運動療法のみなど単一した関わりではなく、多職種で包括的に関わっていくことを示しています。
つまり、運動療法とは心臓リハビリテーションの一部に含まれており、決して同義ではないということを覚えておきましょう。
運動療法における心事故
心事故とは、心臓関連における有害事象であり、以下のようなものを指します。
- 急性冠動脈症候群
- 致死性不整脈
- 急性心不全
- 突然死
心血管患者の心事故発生率についての文献をまとめてみました。
これら上記の結果も、リスク管理を徹底して個々に合わせたプログラムを提供していることが前提であり、アセスメントを怠れば発生率は増加するでしょう。
今一度、心血管疾患患者の運動療法の負荷量について考える必要がありますね。
非ATによる運動処方
回復期における心血管疾患患者には、「レジスタンストレーニング」や「有酸素運動」が推奨されています。
有酸素運動というと、AT(嫌気性代謝閾値)未満の負荷量で行われる運動です。
詳細はここでは割愛しますが、よく聞く勘違いだけここで訂正しておきます。
ワッサーマンの歯車(下図)が有名だと思いますが、取り込んだ酸素は心臓から全身(末梢の筋肉)へ運搬され、ミトコンドリアでATPを合成するときに消費され、二酸化炭素を排出します。
運動負荷量が増加していくと、有酸素運動におけるATP合成では間に合わず、解糖系などの酸素を消費しない手段でATPが合成されます。
しかし、これらは乳酸の蓄積により二酸化炭素濃度が上昇しやすく、二酸化炭素排出量を増加させるために呼吸数が増加します。
CPXではAT時の心拍数を算出することができ、その数値を参考に運動処方が決定しますが、CPXがない施設ではどうしたら良いのでしょうか。
そこで、ATがわからなくても、「AT相当」の運動負荷を設定する方法を紹介していきます。
自覚的運動強度(RPE)
自覚的運動強度ではBorg Scaleを使用します(上記図参照)。
Borg Scaleで自覚的疲労度を聴取するとき、みなさんはどのように確認しているでしょうか。
さて、C/Lといった表記が出てきましたが、これらの意味を理解していますか?
C:Central factor → 息切れ
L:Local factor → 下肢筋疲労
つまり、自覚的疲労感が息切れ(中枢部)なのか、下肢筋力なのか明確にする必要があります。
例えば、C/L 11/13の患者では、下肢の筋疲労が強く、レジスタンストレーニングをプログラムに取り入れることが重要だと判断できます。
図にもあるように、Borg Scale 13がATに相当する運動強度であると言われており、12~13(心不全患者は11~13)の運動負荷量で実施していくのが良いでしょう。
Talk Test
聞き慣れない人も多いかもしれませんが、Talk Testは簡易的に運動負荷量を確認できる評価になります。
快適に会話しながら継続できる運動強度は比較的安全に実施できているということが知られています。
上の図は海外で使用されているものであり、運動療法中に記載された文章を読むことができるかどうかで判断しています。
おおよそ30秒ほどの文章を用意すれば良いです。
☆ 判定基準
容易に読める→負荷量が少ないか適切
読むことが困難→負荷量が多い
Talk Testが陽性(実施可能)だとして、それが運動処方とはどのような関係があるのでしょうか。
実は、運動中の呼気ガスデータを使用して得られるパラメータにVO2(酸素摂取量)を用いてATとの関係性を示した論文があります。
Talk Testが遂行できた群をPositiveとし、実施できなかった群をNegativeとしています。
結果は、Last Possitiveとequivocal stages(ATと同程度)においてはATとVO2に有意差はなく、First NegativeにおいてATを超えるVO2でした。
つまり、Talk Testが実施できなかった時点で、ATを超えてしまっているということになります。
先ほど図で示した通り、トレッドミルと自転車エルゴメータは両者とも、Talk TestとAT処方の強い相関を示すことから、臨床でよく用いられています。
簡易心拍数
安静時心拍数+30/min(β遮断薬使用時は20/min)を指標にするものになりますが、個人の心拍応答を無視しているため、積極的な使用は推奨していません。
β遮断薬、心拍応答不全患者は運動負荷に応じて心拍数を増加させることができず、適切な運動強度ではなく、多くは過負荷になってしまうことが多いからです。
あくまで運動負荷試験が行われて運動処方が決定されるまで、便宜的に使用するにとどめるようにしています。
Karvonen
こちらは国家試験でも学んだと思いますが、以下の式で表されます。
(*最高心拍数-安静時心拍数)×*k+安静時心拍数
*最高心拍数=220-年齢
*k:係数
- 通常例:0.6
- 高リスク:0.4~0.5
- 心不全:0.3~0.5
簡易心拍数と同様に、β遮断薬の使用や心拍応答不全患者では過負荷になることがあります。
基本的には心不全がない若年心筋梗塞患者や、Stage A or Bなどの心不全に至っていない患者に使用します。
最高心拍数(220-年齢)が適切なのかといった議論の余地もあり、どちらにしても不安定な心不全(急性期~前期回復期)や重症心血管疾患患者に使用することは少ないです。
心拍数予備能
Karvonenの式と類似しており、以下の式で表されます。
(最高心拍数-安静時心拍数)の40~60%
*最高心拍数=220-年齢
Karvonenと同様、安定した心血管疾患患者に使用することはあります。
非ATのメリット
CPXを実施しなくても運動強度を設定する方法をいくつか紹介しました。
CPXによるATの決定は重要ですが、欠点も存在します。
- 1点の評価であり、改善していく過程で適切ではなくなる
- 体調の変化に対応できない
- 適応がなく実施できない患者が存在する
- 設備がなければ実施できない
それに対し、CPXを使用しない運動処方の決定(非AT)には、以下のメリットが存在します。
- 設備がなくても実施できる
- 患者の体調に合わせた運動負荷を設定できる
- 簡便であり、患者でも管理がしやすい
個人的にはBorg ScaleとTalk Testを活用することが多いです。
参考著書や論文
RACHEL PERSINGER et al; Consistency of the Talk Test for Exercise Prescription
循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
まとめ
非ATによる心臓リハビリテーションの運動処方決定法について解説しました。
CPXはATの同定だけでなく、各パラメータから予後の決定などメリットが多いのは事実です。
しかし、CPXは必ずしも実施できるものではなく、日々変化する患者の状態を正確に追うことは難しいといった側面を持ちます。
非ATでは患者の状態に合わせて負荷量を設定できるので、安全に心臓リハビリテーションを実施することが可能です。
しかし、現在のガイドラインでは、CPXによるATを用いた運動処方で運動療法を実施していくことが推奨されているので、両者をうまく活用していけると良いですね。
この記事を参考に、リスク管理を徹底して安全に心臓リハビリテーションを実施していきましょう。
CPXについて学びたい方は以下の著書を参考にしてください。
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