近年MitraClipと呼ばれる手術をする施設も多くなってきましたが、その概要について知っていますか。
これからも増加傾向が予想される手術であり、みなさまの施設でも実施するようになる可能性があります。
今回はMitraClipの概要や心臓リハビリテーションについて、ガイドラインを参考にしながら解説していきます。
この記事を読んでわかること
- MitraClipの概要
- 心臓リハビリテーションの注意点
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MitraClipとは
日本語訳で経皮的僧帽弁接合不全修復システムとされ、開心術と比較して低侵襲で実施できる特徴があります。
僧帽弁閉鎖不全症(以下:MR)患者を対象としており、その治療成績の報告は増加傾向です。
日本では2018年4月より一次性/二次性MRの保険適応となりました。
MR治療の第一選択は外科手術ですが、手術適応であるMR患者は一次性で約半数、二次性で約8割が手術に至っていないと報告されています。
経皮的カテーテル僧帽弁修復術で最も普及しているのがMitraClipであり、手術不能または手術リスクが高いMR患者への治療として開発されました。
榊原記念病院公式 経皮的僧帽弁接合不全修復術(アボットメディカル合同会社様提供)
MitraClipの適応
MitraClipを含む経皮的僧帽弁形成術は、ガイドラインにおいて以下に示す患者を対象に考慮されます。
器質性あるいは機能性僧帽弁逆流を有する心不全患者のなかで、僧帽弁逆流に対する治療介入が自覚症状の軽減、QOLの改善をもたらすと期待されるものの、開心術リスクが高い患者
引用:循環器学会 2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
基本的には、専門医による最新で適切な内科的治療を受けていることが条件になります。
ガイドラインによるMitraClipの適応は以下に示します。
- LVEF≧30%の重症一次性/二次性MRで開心術が困難
*安静時、負荷時を問わない
- MRの改善により症候軽快が期待できる
- MitraClipの施術に適した僧帽弁の形態
しかし、上記条件を満たしていても、次の患者では手術が適応にならないので注意しましょう。
- 専門医による最新の至適薬物療法が十分に行われていない二次性MR
- 心不全の急性増悪(急性期)
- 強心薬(カテコラミン)に依存している状態
- 補助循環を使用している症例
これらが除外されていれば、フレイルなどの高齢心不全患者でも比較的安全に実施できる画期的は手術になります。
MitraClipの不適応
ガイドラインが提唱するMitraClipの不適応については上の図を参考にしてください。
基本的に経カテーテルなのでシースの挿入が困難であれば適応になりません。
他にも弁尖の形状不全や活動性の心内膜炎による病変、心内血栓の存在もリスクが高いです。
MitraClipの合併症
主な合併症は5つであり、術後30日以内の周術期合併症は15-19%と報告されています。
- 心嚢液貯留、心タンポナーデ
- 大腿静脈穿刺部出血
- 心房中隔穿刺孔遺残
- SLDA(Single leaflet device attachment)
- 僧帽弁狭窄
ひとつずつ解説していきます。
心嚢液貯留、心タンポナーデ
最も重大な合併症であり、その発生率は1-2%と報告されており、ガイドワイヤーが左心耳に入り、穿孔させることで発生します。
大腿静脈穿刺部出血
大腿静脈シースは大口径であるので、手技終了後の止血後でも出血することがあります。
出血による貧血を呈した場合には輸血が行われます。
心房中隔穿刺孔遺残
心房中隔後、医原生に心房中隔穿刺部の孔が残存してしまう症例がいます。
左右シャントや右心不全をきたして心不全が悪化してしまう場合には閉塞栓を留置することが考慮されます。
SLDA(Single leaflet device attachment)
クリップが前尖や後尖のいずれかで脱落することをSLDAと呼び、その発生率は稀ですが0.6%程度は存在すると報告されています。
SLDAの合併で心不全が改善しない場合にはMitraClipの追加手術が検討されます。
僧帽弁狭窄
MitraClipによってMRの逆流は減少しますが、反対に僧帽弁は狭窄状態に陥ります。
僧帽弁圧較差が5mmHg以上であれば医原生僧帽弁狭窄症となり、クリップを一度留置してしまった場合は外科的に摘出することが必要です。
MitraClipと心臓リハビリテーション
上の図は心臓手術後の心臓リハビリテーションにおける推奨クラスとエビデンスになります。
心臓手術後の心臓リハビリテーションのエビデンスは確立されており、運動療法はセラピストの専門として活躍します。
しかし、前提として弁膜症による心不全を呈している患者では、運動療法のみでなく他職種の包括的な関わりが重要となってきます。
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そこで、周術期におけるセラピストの関わり方を以下の4時期に分けます。
- カンファレンスの参加
- 術前の介入
- 術後の介入
- 外来リハビリテーション
それではひとつずつ解説していきます。
カンファレンスの参加
循環器の医師や看護師だけでなく、リハビリ医やセラピストもハートチームとしてカンファレンスの参加が望ましいです。
MitraClipは低侵襲であり開心術が困難な高齢フレイル患者も適応になりますが、以下に示すように重複障害者であることが多いです。
- 骨関節疾患
- 脳血管障害
- 認知機能低下
そのため、現在のADLがMR由来の心不全のものなのか、その他の疾患による影響なのか評価する必要があります。
運動療法であれば理学療法士の介入が必要ですし、認知機能であれば作業療法士、嚥下障害では言語聴覚士といった関わりが重要です。
術前の介入
術前までに以下の内容は確認しておくことが望ましいです。
- 生理機能
- 身体機能
- 精神機能の再評価
- 術式
術前評価は術後比較のアウトカムや、術後機能の予測判定に役立ちます。
また、フレイル患者では短期間の入院でも身体機能が低下することはしばしば経験するので、主治医と相談して術前から運動療法を介入することも検討する必要があります。
術後の介入
MitraClip術後のリハビリテーションは開心術より早めにステップアップさせます。
術後早期はリスク管理下で離床を進め、安静度に準じて筋力訓練や歩行訓練、ADL訓練を実施していきます。
下の図は、従来の開心術後リハビリテーションのプロトコールをガイドラインより引用したものです。
基本は勤務先施設のプロトコールに準じて進めていただければ良いですが、確立されていない施設は参考にして頂けると良いでしょう。
症状が安定してきたら各専門職による指導が必要です。
- 疾病管理指導
- 生活指導
- 薬剤指導
- 栄養指導
- 運動指導
心不全は包括的な関わりが重要だと先述した通り、再発予防を含めて上記の内容は本人や家族にお伝えしましょう。
もともと術前ADLが限界であった症例や、術後にADL低下を認めた場合には介護保険サービスの利用などの早期に検討することも必要です。
退院後の地域へのシームレスな連携が今後は注目されてくるでしょう。
外来リハビリテーション
術後心臓リハビリテーションの有用性は認められていますが、入院期間が短期であるため十分な提供が困難になります。
そのため、外来リハビリテーションによる介入は非常に効果的です。
- CPX(心配運動負荷試験)による運動負荷量の決定
- 運動継続の促進
- 疾病管理の確認
運動耐容能の改善には数ヶ月は必要ですが、継続することが重要になるため長期の介入が理想となります。
参考資料
- 文献:MitraClipと心臓リハビリテーション
著 者:小山照幸
掲載先:Jpn J Rehabil Med Vol.56 No.12 2019
- 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
- 循環器学会 2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
- 2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する外科的手術MitraClipについて解説しました。
2018年より保険認可され、今後手術数が増加していくことが期待されている術式です。
開心術が困難なフレイル患者も適応となることが特徴であり、術後のADLが低下しないための関わりが重要となります。
チーム医療として他職種との連携を意識していきましょう。
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