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文献紹介
今回は、心不全新薬の位置付けについて紹介します。
著者:絹川真太郎
掲載先:Progress in Medicine Vol.41 No.4 2021.4
はじめに
近年、HFrEF患者に対する新薬のエビデンスが報告されています。
報告されている新薬の商品名を例に挙げます。
・サクビトリルバルサルタン(ARNI)
・ダパグリフロジン(SGLT2阻害薬)
・エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)
これらの新薬はHFrEF患者に有効であることが示されており、治療アルゴリズムが変わろうとしています。
本稿では、最新のガイドラインに則って新薬の位置付けを解説していきます。
HFrEF患者に対する従来の基本治療
HFrEFの病態形成には神経体液性因子の活性化が貢献しており、心筋理モデリングを引き起こします。
さらに心筋障害や心ポンプ機能不全に陥り、この悪循環が心不全を進展させる原因です。
心不全を起こさないために、以下の項目を目指す必要があります。
・ステージの進行を遅らせる
・増悪による再入院の回避
・症状改善によるQOL向上
これらを達成するためには、疾病管理・運動療法・薬物療法が必要になります。
HFrEF患者に対する薬物療法に関して、日本循環器学会のガイドラインでクラスⅠであり、予後改善効果が証明されているものを挙げます。
・ACE阻害薬
・ARB
・β遮断薬
・MRA
・ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬
ACE阻害薬・ARB・MRA
作用する場所は違いますが、結果的にアルドステロンの作用を抑制することによって効果を発揮します。
血管拡張や循環血液量減少による前負荷・後負荷の軽減に寄与し、比較的早い時期から治療効果が期待できます。
β遮断薬
β遮断薬の有効性の機序は複数考えられています。
・心筋障害の抑制
・レニン分泌抑制
・抗不整脈作用
・心筋酸素消費量の低下
・拡張期特性の改善
β遮断薬は心筋リモデリング抑制効果・LVEF改善効果の報告があり、その効果は濃度依存的であると言われています。
利尿薬
うっ血改善目的に利用される利尿薬ですが、長期予後改善や心血管イベント抑制などの効果は示されておりません。
しかし、急性期で循環動態が不安定な状態では、前負荷を軽減させるためには必要な薬剤になります。
新たな心不全治療薬のエビデンス
HFrEF患者に対する新薬のエビデンスが報告されていることを知っているでしょうか。
ここでは、各新薬について説明していきます。
ARNI(商品名:エンレスト)
サクビトリルバルサルタンは以下の化合物になります。
・ARB(バルサルタン)
・ネプリライシン(NEP)阻害薬(サクビトリル)
ネプリライシン阻害による治療効果は、ナトリウム利尿ペプチドや他の血管作動性ペプチドの血中濃度上昇に基づいて、次の有効性を示します。
・血管拡張(後負荷軽減)
・ナトリウム利尿作用(前負荷軽減)
・抗繊維化
・抗炎症
HFrEF患者では、エナラプリル(ACE阻害薬)と比較してサクビトリルバルサルタンの方が予後改善効果を示しました。
○推奨クラスⅠ
ACE 阻害薬(または ARB)、β遮断薬、MRA がすでに投与されているHFrEF患者において、症状を有する(または効果が不十分)場合、ACE阻害薬(またはARB)からの切替えをおこなう
引用:日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
SGLT2阻害薬(商品名:ダパグリフロジン/エンパグリフロジン)
この薬剤を説明するには、まずSGLT2について知りましょう。
SGLT2とは腎臓の近位尿細管に発現するトランスポーター(運搬役)であり、糸球体で濾過された糖の約90%を再吸収します。
つまり、SGLT2阻害薬の作用は次のように説明できます。
・糖の排泄を促進
・血糖降下作用(インスリン非依存性)
・体重減少
体重減少の機序としては、糖の排泄により脂肪がエネルギー消費として使用されるからです。
SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンは、心血管死および心不全による入院のリスクを低下させると報告されています。
心不全や慢性腎臓病(CKDステージ3 以下)を合併する2型糖尿病患者には,SGLT2阻害薬の積極的使用を推奨している
引用:日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
糖尿病患者における心血管イベント抑制にSGLT 2阻害薬は有効である可能性が示唆されており、その機序については以下のように考えられています。
・利尿、腎保護、心筋エネルギー代謝効率の改善効果
・腎エリスロポエンチン分泌亢進(ヘマトクリット増加)
・慢性炎症、酸化ストレス低減
・肥満の改善
SGLT2はHFrEF患者の心不全増悪に対する一次予防だけでなく、二次予防にも寄与するため知っておきたい薬剤になります。
Ⅰfチャネル阻害薬(商品名:コララン)
この薬剤を説明するには、まずⅠfチャネルについて知りましょう。
洞結節の自動能(ペースメーカー)に寄与する電流を過分極活性化陽イオン電流(Ⅰf)と呼びます。
イバブラジンはⅠfチャネルを特異的に抑制し、拡張期脱分極相における活動電位の立ち上がりを遅らせて心拍数のみを減少させます。
それでは、同様に心拍数を減少させるβ遮断薬との違いはなんでしょうか。
HFrE患者の運動耐容能では、イバブラジンはβ遮断薬に比べて運動耐容能の改善が良好な傾向であった。これはβ遮断薬では運動時に交感神経抑制効果が強く現れるdominant negative effect があるのに対し、イバブラジンにはそれがないためと考えられている
引用:日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
β遮断薬は心拍出量も減少させてしまうため、運動耐容能の改善に貢献しにくい傾向にあります。
それでは全てイバブラジンに切り替えれば良いのではないかと思いませんか?
実際にはLVEF≦35%のHFrEF患者で、安静時心拍数75拍/分以上の同調律のみ適応となります。
HFrEF患者に対する新たな薬物治療とアルゴリズム
先述した新薬のエビデンスに基づいて、日本循環器学会が現状の心不全治療アルゴリズムを作成しました(上図参照)。
従来のHFrEF患者に対する治療法は、ACE阻害薬/ARB+β遮断薬にMRAを追加することです。
しかし、従来の治療方法で有症候性の場合には、ACE阻害薬(ARB)をARNIへ切り替えます。
また、糖尿病の有無にかかわらず、心血管死や心不全による入院リスク低減を期待してSGLT2阻害薬を導入。
他に、以下の併用薬は従来のとおりです。
・利尿薬
・ジギタリス(強心薬)
・血管拡張薬
基本治療をおこなっても有症候性の場合はイバブラジンの導入を検討しますが、次の条件のどちらかに該当する場合のみとなります。
・同調律かつ75拍/分以上の心拍数
・β遮断薬に不耐容あるいは禁忌
文献抄読の感想
従来の心不全治療薬アルゴリズムはアップデートされ、私の病院でも新薬が導入されています。
最新の知見を把握しておかなければ、内服の切り替えに対する医師の判断を見誤るリスクが生じるでしょう。
例えば、ARNIにはさまざまは副作用があります。
・血圧低下
・腎機能悪化
・高K血症
これらの知識を有していれば、内服切り替えのタイミングで副作用に注意することができます。
心不全を勉強したい方へ
今後は心不全パンデミックが訪れると言われているため、高齢心不全患者が増加していくでしょう。
それは急性期病院だけでなく、回復期や維持期でも心不全患者に関わるようになり、適切な知識が必要になります。
今日から心不全パンデミックに備えて準備を始めていこうと考えている方に、おすすめの専門書を紹介していきます。
病気が見える Vol.2 循環器(医療情報科学研究所)
著書はベストセラーの病気がみえるシリーズとなります。
全てカラーイラストでわかりやすく解説されており、循環器疾患を幅広く知りたい方におすすめです。
心疾患を抱えている患者は非常に多いため、困った時のハンドブックとして活用するとよいでしょう。
循環器患者に関わる医療従事者は1冊は持っておきたい良書です。
心不全治療薬の考え方、使い方(大石醒悟ら)
著書は私の記事でも紹介した新薬の情報が記載されています。
電解質異常など治療薬以外の内容も記載されており、心不全の教科書として活用することができます。
よくわかる最新医学 心不全(小室一成)
著書はベストセラーの「よくわかる最新医学シリーズ」になり、内容は以下に分類されています。
・心不全の概要
・心不全発症の予防
・心不全再発の予防
・家族サポート
著書の特徴として、心不全予防をテーマに展開されています。
急性期患者の退院時指導だけでなく、家族指導、維持期における再発防止の指導に活用することができるでしょう。
こういった取り組みは心不全患者の入院リスクを低減することにつながるため、本書を活用して地域連携に取り組んでいってください。
心臓リハビリテーション(上月正博)
心臓リハビリテーションについて解説された著書になります。
基礎から臨床まで幅広く記載されており、循環器患者に関わるセラピストであれば1冊は持っておきたいです。
特に、心肺運動負荷試験(CPX)は注目されてきている領域であり、各パラメータの生理学的意義についても解説しています。
まとめ
心不全に対する新薬のエビデンスに基づき、心不全治療アルゴリズムが作成されました。
今回紹介した薬剤はARNI・SGLT2阻害薬・イバブラジンです。
導入されている病院も増加傾向ですので、最新の知見として理解しておきましょう。
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