今回は、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(以下:RALP)について解説していきます。
泌尿器科や癌患者に関わる医療従事者でなければ聞き慣れない用語ではないでしょうか。
少なくとも、関わりのある人はこの記事を読んで覚えてくださいね。
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RALPとは
RALP(ラルプ)とは、手術支援ロボットのダビンチシステムを利用し、より解剖学的構造を視認しながら施行する手術となります
2012年4月より保険診療として認可され、現在では限局性前立腺癌の手術療法として第一選択と言えるでしょう。
RALPの適応
基本的には先述した通り、RALPは転移のない限局性前立腺癌の患者を対象としています。
年齢は75歳以下を対象としている報告が多いです。
RALPの合併症
RALPをはじめ手術療法とは、人体に侵襲が加わるため合併症を引き起こすことがあります。
次に上げるのは、RALP周術期における合併症です。
RALP術中の合併症
手術中における合併症になります。
・出血
・腸管、尿管損傷
・ガス閉塞
術中だけでなく、手術の数日後に症状として出現することがあります。
再手術が必要な場合がありますので、患者の状態変化を見逃さないようにしなければなりません。
RALPの早期合併症
手術から退院までの数日間に合併症を認めることがあります。
・吻合部の尿漏れ
・深部静脈血栓による肺塞栓
・感染症
・せん妄
深部静脈血栓などは不動により生じやすく、術後早期より離床・歩行を促します。
早期離床はせん妄予防にも繋がるため、危険がないことを判断したら少しずつ起こしていきましょう。
RALPの晩期合併症
退院後でも症状を認めることがあります。
・尿失禁
・勃起障害
・腸閉塞
後述しますが、RALP後は腹圧性尿失禁を呈するといった報告があります。
尿失禁因子として神経温存の有無は確定としておらず、議論は続いている状況です。
RALPと尿失禁
先述した通り、RALP施行後に尿禁制の保持が重要となってきます。
術後尿禁制を予測する因子は多岐にわたるとされており、尿禁制の保持は優先すべき課題です。
・術前の下部尿路症状
・術後カテーテル留置期間
・神経温存
実際、神経温存をしない前立腺全摘除術後の患者でも尿禁制保持に差を認めることはあり、この結果から尿禁制は神経温存以外の因子も関与していることが言えるでしょう。
RALPによる尿失禁は多くの文献で、約90%が1年で尿失禁の改善を認めています。
尿禁制因子の評価
参考にした文献では、RALP術後患者に対する尿禁制因子の評価項目を挙げていました。
1つずつ紹介していきます。
国際前立腺症状スコア(IPSS)
国際前立腺症状スコア(以下:IPSS)とは、前立腺肥大症の自覚症状を評価して重症度を判定する質問票になり、QOLスコアと合わせてチェックされます。
IPSSのカットオフ値は、以下の通りです。
・軽症 :7点以下
・中等症:8-20点
・重症 :21-35点
上記写真のURLでダウンロードすることができます。
過活動膀胱症状スコア(OABSS)
過活動膀胱症状スコア(以下:OABSS)とは、膀胱過活動の症状をチェックする質問票になっております。
OABSSのカットオフ値は、以下の通りです。
・軽症 :5点以下
・中等症:6-11点
・重症 :12点以上
これはあくまで目安なので、自己判断せずに医師に相談するようにしましょう。
RALP×理学療法士
RALP術後患者に対して、理学療法士はどのような関わりができるのでしょうか。
急性期では早期離床やADL評価により、次の効果が期待できます。
・術後合併症の予防
・退院判定の情報収拾
・廃用予防
慢性期では腹圧性尿失禁に対して、骨盤底筋群を賦活する骨盤底筋体操の指導が重要になります。
腹圧性尿失禁とは
腹圧性尿失禁とは、お腹に力が入ってしまった時に尿漏れしてしまうことです。
尿失禁は女性で多く、直接的に生命を脅かすものではありませんが、QOLの低下をもたらすことから治療の重要性は高いものとなります。
尿失禁に対しては骨盤底筋体操が効果的であり、そのやり方を説明していきます。
骨盤底筋体操とは
骨盤底筋はいくつか存在し、総称して骨盤底筋群としています。
骨盤底筋群のトレーニングを骨盤底筋体操と呼び、尿もれを訴える人を対象として指導することが必要です。
骨盤底筋群は多くに筋肉から構成されているため、代表的なものだけ挙げます。
・恥骨直腸筋
・恥骨尾骨筋
・腸骨尾骨筋
これらは視覚的に筋収縮を捉えられないため、収縮感覚が自覚しにくいことから運動の習慣化が困難といった問題もあります。
理想としては、専門家による指導が第一選択と言えますが、グッズを使うことで効果を相乗させる方法もおすすめです。
骨盤底筋体操の効果
骨盤底筋体操の効果は、尿漏れを防ぐことになります。
基本的には筋活動によるものであるため、神経が温存されていない場合には難しい場合があるでしょう。
RALP後は神経が温存されていても一時的に骨盤底筋群の機能低下を起こすため、骨盤底筋体操は効果的だと言えます。
骨盤底筋体操の方法
ここでは、骨盤底筋体操をいくつか紹介していきます。
骨盤底筋体操①
仰向けで両方の膝は立てます。
肛門や尿道を締めるようにして、陰部全体をじわじわと引き上げるイメージで行いましょう。
締める、緩めるといった工程を1分間繰り返します。
骨盤底筋体操②
壁にもたれるようにして床に座り、両膝を軽く開いて立てましょう。
その状態を保持したまま、骨盤底筋体操①と同様に1分間繰り返します。
骨盤底筋体操③
足を肩幅に開き、テーブルなどに手を置いて立ちます。
他の運動と同様に、1分間運動を繰り返しましょう。
立つ姿勢が難しい人は、背もたれ椅子に座って実施してください。
RALPの文献報告
RALP術後患者の文献報告をいくつか紹介していきます。
術後尿禁制保持に影響を与える因子として、神経温存以外の項目としてOABSSが抽出された
草野脩平:ロボット支援前立腺全摘除術後における尿禁制予測因子の検討
RALP後の尿禁制率は他の術式と比較して良好であるが、術前の患者背景や術者の熟練度、神経温存の有無を含めた術式に影響を受ける
香川純一郎 徳島大学におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術の初期治療経験
RALP術後の骨盤底筋体操は3~5ヶ月の継続を推奨している
島田武仁 ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘(RALP)術後 尿失禁に対する骨盤底筋体操指導の効果
まとめ:RALPってなに?
今回はRALPと尿禁制について解説しました。
RALPを実際に施行している病院でなくても、前立腺摘除術を施行されている患者の尿禁制については意識する必要があるでしょう。
尿漏れはQOLの低下を招く危険性があり、尿漏れを訴える相手には骨盤底筋体操を勧めましょう。
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