PICSってなに?集中治療室(ICU)退出後も後遺症が残る⁉︎地域を含めた関わりが重要

廃用症候群

みなさんは、PICSという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

近年、ICUを退出した患者で後遺症を認める患者は増加傾向にあります。

実際、単なる廃用で片付けてしまっている患者もPICSに当てはまる場合があり、セラピストは知っておかなければならない概念です。

それでは、PICSについて解説していきます。

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PICSとは

正式な日本語訳はありませんが、「集中治療後症候群」として表現されることが多いです。

PICSの定義は以下の通りであり、2010年にこの概念が誕生しました。

ICU患者がICU在室中あるいはICU退室後、退院後に生じる運動機能、認知機能、精神の障害であり、さらには患者家族の精神(PICS-F)にも影響を及ぼすもの

ここで大事なことは、患者家族まで対象にしていることがポイントになります。

PICSは2016年の日本敗血症診療ガイドライン2016において、世界で初めてガイドラインに取り入れられました。

それでは、PICSの疫学について説明していきます。

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PICSの疫学

現時点でPICSについて世界的に統一された具体的な診断基準があるわけではなく、疫学も不明な部分が多いです。

PICSはICU生存者の半数以上も存在すると言われており、それぞれの要素における海外観察研究から説明していきます。

身体機能

廃用症候群とは異なるICU患者に生じるICU-AWの頻度は、48時間以上人工呼吸器を装着した成人患者で概ね半数程度と報告されています。

また、敗血症患者の生存退院時には、18%で呼吸器系の障害が見られるといった報告も。

敗血症についてはこちらの記事から

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認知機能

システマティックレビューによれば、ICU生存患者の4~62%に認知機能障害を呈したといった報告があります。

このばらつきは観察期間や診断方法の違いになりますが、ある程度の割合は改善していきます。

メンタルヘルス

さまざまなシステマティックレビューの統合解析では、ICU生存患者の3-4割は精神症状を有するといった報告があります。

複数の症状(不安・抑うつ・PTSD)のうち、少なくとも1つを有する患者は1/2~2/3と非常に高い割合です。

つまり、半数以上がメンタルヘルスの問題を抱えていると考える必要があります。

PICS-F

ICU患者のメンタルヘルス障害では、3-6ヶ月時点でも以下の割合を示しています。

  • 不安 :15-49%
  • 抑うつ:6-20%
  • PTSD :33-49%

患者と死別した家族の場合は、その割合が増加する傾向にあります。

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PICSの原因

PICSの原因は、以下の4つに分類できます。

  • 患者の疾患および重症度
  • 侵襲的な医療・ケア介入
  • ICU環境要因
  • 患者の精神的要因

これらの要因が複雑に絡み合い、PICSの発症に関わっていると言われています。

PICSのリスク因子

PICSのリスク因子のほとんどが観察研究であり、種々の交絡因子の排除が困難であるといった問題点があります。

ここでは、患者自身に起こる症状のリスク因子について解説していきます。

身体機能障害のリスク因子

ICU-AWのリスク因子として挙げられるのは以下の通りです。

  • 多臓器不全(敗血症)
  • ステロイド使用
  • 神経筋遮断薬
  • 高血糖
  • 不動化

しかし、病態機序自体が不明確なため、これらがリスク因子であると言い切ってしまうことは難しいです。

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認知機能障害のリスク因子

ICU生存患者のリスク因子として挙げられるのがせん妄であり、その原因となるものは認知機能障害のリスクとなり得ることを考えましょう。

せん妄とは、身体疾患や中毒によって短期間で惹起される注意や意識の障害、認知機能障害

せん妄の原因をできる限り特定しなければ、認知機能障害の原因となる脳機能障害を遷延させてしまいます。

メンタルヘルスのリスク因子

ICU生存患者の不安、抑うつリスク因子は以下の通りになります。

  • 高齢
  • 人工呼吸器管理
  • せん妄
  • 雇用のない状態、低収入
  • 低い教育レベル

続いて、PTSDのリスク因子です。

  • 精神疾患既往
  • ベンゾジアゼピン系薬
  • ICU在室中および退院後の精神症状
  • ICUでの恐怖の記憶

これらが全てではないですが、重複する項目も多いため、互いに交絡していることは容易に想像ができます。

PICS-Fのリスク因子

患者家族のメンタルヘルスのリスク因子になります。

  • 女性、若年
  • 精神疾患の家族歴
  • 低い教育レベル
  • 重症患者の配偶者
  • 患者の死亡

患者家族による因子が多く挙げられています。

他にはICUにおけるコミュニケーションや患者死亡など、家族以外の要因も起こりうることを知っておかなければなりません。

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PICSの予防

PICSを予防するためには、以下の取り組みが重要になります。

  • 早期リハビリテーション
  • ABCDEFGHバンドル
  • ICU日記
  • 認知療法

ひとつずつ解説していきます。

早期リハビリテーション

内容の前に、早期リハビリテーションの定義について説明します。

疾患の新規発症、手術または急性増悪から48時間以内に開始される運動機能、呼吸機能、摂食嚥下機能、消化吸収機能、排泄機能、睡眠機能、免疫機能、精神機能、認知機能などの各種機能の維持、改善、再獲得を支援する一連に手段

引用:日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会

集中治療における早期リハビリテーション~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~

これは過度な安静臥床による各種臓器の機能低下や二次障害の廃用症候群の予防を目的とするものになります。

早期リハビリテーションといえば早期離床といったイメージが強いと思いますが、以下のプログラムも含みます。

  • ベッド上の関節運動、筋力トレーニング
  • 自転車エルゴ
  • 神経筋電気刺激
  • ベッドサイド立位、足踏み
  • 歩行

早期リハビリテーション患者では人工呼吸器管理であることが多く、実施にはリスクが伴います。

しかし、早期リハビリテーションの介入による報告では、7546名に対する22351回の実施においてイベント発生率は2.6%であり、有害事象の発生率は低いことが示されています。

しかし、0%ではないので各施設の離床プロトコルに沿って厳格な判断で介入していくことが必要です。

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ABCDEFGHバンドル

PICSに対する予防策として示されているのがABCDEFGHバンドルです。

人工呼吸器や鎮静による医原性リスクを低減することで合併症を防ぐことを目的としています。

詳細は下図で示してある通り、それぞれの頭文字をとったものになります。

(画像)

このバンドルの中に早期リハビリテーションも含まれており、PICS予防の位置付けとして重要視されていることがわかりますね。

ICU-diary(ICU日記)

家族や医療者が日々の出来事や治療について記録することであり、記憶の欠落や歪みを補完することで退院後の回復に期待するものになります。

ICU-diaryの効果は以下の通りです。

  • ICUに関する記憶の補完、修正
  • 患者家族との情報共有
  • 精神症状の予防

ちなみに、先述したABCDEFGHバンドルにICU diaryをつけてABCDEFGHIバンドルとする専門家もいます。

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認知療法

先述したICU diaryも認知療法のひとつであり、欠落・歪んだ記憶を保管することで認知機能障害の予防に繋がります。

また、入院中によるストレスを抱える患者も多いため、ストレス発散様の訓練介入を取り入れることで心の余裕を持たせることも重要です。

その他

身体、認知、メンタルヘルス因子はさまざまであり、患者の状態に合わせた対応が必要になります。

  • 血糖コントロール
  • 薬剤の調整
  • 家族への適切なコミュニケーション

早期よりPICSになり得る原因を予測して行動に移すことが大事です。

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PICSと地域医療

その他

PICS対策を考えていくうえで、急性期医療から地域医療までの他職種の関わりが重要です。

特に、地域医療では以下の役割が必要になります。

  • 新規発症PICSの発見、評価、治療
  • PICS患者と家族の支援

しかし、PICSの認知度はそこまで高くないため、地域医療との連携にはいくつかの課題があります。

アンケート結果における課題を以下に示します。

  • かかりつけ医へのPICS啓発活動
  • 患者情報の共有
  • 各専門職、行政との連携

地域ではPICSを発症していないかを意識することが地域医療の第一歩だと考えられています。

ICU歴のある患者を担当する場合は、PICSであるかどうか評価してみてください。

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PICSと栄養療法

栄養療法がPICSやICU-AWの予防に重要であるという報告があります。

ここでは、ガイドラインにおける栄養療法の推奨について解説します。

○ 投与経路

経静脈栄養より経腸栄養

経腸栄養を開始するには経胃投与を標準

○ 開始時期

早期(重傷病態への治療後24~48時間以内)から経腸栄養開始

ショック患者には経腸栄養は行わない

○ 投与カロリーとタンパク質量

治療開始時期は経腸栄養を消費エネルギーより小さく投与

不足時は補足的経静脈栄養

急性期では1g/kg/day未満のタンパク質投与

(ガイドライン)

日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG2020)

ヨーロッパ臨床栄養代謝学会(ESPEN)

どのような栄養療法が長期的な身体機能に効果があるかは明確ではありません。

現在ガイドラインで推奨されている方法で進めていき、逸脱群は患者ごとの対応をしていくしかないですね。

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PICSとCOVID-19

COVID-19に罹患した場合もPICS同様にメンタルヘルス障害への影響が報告されており、家族含めたサポートが必要です。

医療資源の枯渇も懸念されている中で、ABCDEFGHバンドルの遵守による医療コスト削減は注目されています。

早期リハビリテーションによるPICSの予防は、患者の免疫を含めた各種機能の改善や入院期間の短縮により、医療資源・コスト削減に貢献する可能性があります。

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まとめ

2010年より提唱され始めたPICSについて解説しました。

ICUによる急性期病院ではよく用いられていますが、家族サポートや地域連携も必要になります。

大事なことは早期リハビリテーションを含めたABCDEFGHバンドルによるPICSの予防になりますが、地域による新規発症、発見も重要です。

まずはPICSの予防に努め、症状を認める場合には地域を含め情報を提供していきましょう。

参考にした著書はこちら

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