呼吸リハビリテーションの重要性は言うまでもなく、COVID-19患者の蔓延により需要も増加傾向です。
排痰手技はセラピストとして必要にはなりますが、苦手としているセラピストが多いでしょう。
今回は排痰手技の中でも、アクティブサイクル呼吸法(以下:ACBT)と自律性排痰法(以下:AD)について解説してきます。
この記事を読んでわかること
- アクティブサイクル呼吸法(ACBT)
- 自律性排痰法(AD)
- 等圧点理論
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排痰とは
末梢から中枢(気管)へ移動してきた痰を除去することを排痰と呼び、その手技はさまざまです。
痰の貯留は窒息や低換気の原因となり、状態が不安定な救急患者では速やかな排痰が望ましいとされています。
排痰で重要となるのが咳嗽(せき)であり、まずは咳嗽のメカニズムから解説していきましょう。
咳嗽のメカニズム
咳嗽は、気道にほこりやウイルスなどの異物を感知した時に体外に排出しようとする体の防御反応です。
咳嗽のイメージは息を吐くことが強いと思いますが、実際には4層に分類されています(3層といった考え方もあります)。
- 咳の誘発
- 深い吸気
- 圧縮
- 速い呼気
各層について簡単に解説していきます。
咳の誘発
何らかの要因で咳嗽反射が誘発されます。
この層を除外した3層の考え方も存在します。
深い吸気
咳嗽反射の誘発に伴い深い吸気へ移行しますが、その理由は呼気流速を速くするためです。
深い吸気が伴わなければ、後述する等圧点理論で重要となります。
圧縮
ここでは流速を高めるために肺の中の空気を圧縮します。
ここでは声門閉鎖・胸腔内圧の上昇が起こります。
速い呼気
圧縮された空気を一気に吐き出します。
この層で得られる咳嗽時最大呼気流速(CPF)は排痰能力の指標になるので覚えておきましょう。
簡易的な検査はピークフローメータを使用します。
ACBTとは
ACBTは以下の3つの手技を組み合わせて末梢気道から中枢気道へ痰を移動させて喀出させる排痰法です。
- 呼吸コントロール(BC)
- 胸郭拡張練習(TEE)
- 強制呼出手技(FET)
特別な器具を必要とせずに自己にて実施可能なため、臨床でも活用されています。
その適応は急性期~慢性期、手術後の気道分泌物が多い患者と幅広いことが特徴です。
禁忌はないですが、意識障害や重度認知症患者では協力が得られないため不適応になることもあります。
それでは、ACBTを実施するうえで知っておいてほしい注意点を挙げます。
- 体位ドレナージと併用
- 介入中はモニタリング
- 脱水や乾燥による因子を除去
- 開胸・開腹術後は創部痛を回避
排痰手技なので聴診により痰の位置を確認してから実施しましょう。
聴診が苦手な方は、実際の聴診音も確認できる以下の書籍がおすすめです。
脱水に関しては輸液、乾燥では吸入療法のひとつであるネブライザーをACBT前に実施することを推奨します。
それでは、ACBTの各基本手技について解説していきます。
呼吸コントロール(BC)
呼吸コントロールとは基本的にリラックスしておこなう安静呼吸のことを指します。
目的は気道閉塞増大の防止と呼吸補助筋の休息です。
後述する2つの手技の間に組み合わせて効率良く排痰が行えるようにします。
呼吸方法は胸式ではなく横隔膜(腹式)呼吸を意識しましょう。
胸郭拡張練習(TEE)
胸郭拡張練習は深呼吸を指し、末梢気道から中枢気道へ痰を移動させることを目的とします。
吸気量を増加させ、側副気道を介して気道内分泌物より末梢に空気が流入することで痰が動かしやすくなります。
ゆっくりと大きく吸気した後に息止めを1-2秒程度実施し、自然に吐くように指示しましょう。
強制呼出手技(FET)
強制呼出手技で用いられるものがハフィングになります。
ハフィングの目的は気道内分泌物の移動や排痰の促進になります。
ハフィングだけでなく咳嗽(介助)を併用することで排痰効果が高まりますが、術後患者では疼痛を伴う場合があるので注意しましょう。
自律性排痰法(AD)とは
ADとは、上図に示すように低肺気量位~高肺気量位へと3つの層に分けてハフィング(各5回程度)を繰り返すことで、気道内分泌物を末梢気道から中枢気道へ移動させて排痰を促す手技です。
各層における肺気量位と目的を下記に示します。
- 第1層:最大吸気後に低肺気量位(引き剥がす)
- 第2層:中肺気量位(痰を集める)
- 第3層:最大吸気位から高肺気量位(排出)
ハフィングによる排痰のメカニズムは等圧点理論からなりますが、聞きなれない方も多いでしょう。
最後に等圧点理論について解説していきますね。
等圧点理論とチョーキングポイント
まずは「等圧点」と「チョーキングポイント」の用語を整理しておきましょう。
チョーキングポイントでは呼気の気流流速が最大となり、気道内分泌物を排出する作用を持ち、移動するといった特徴があります。
- 肺気量増加:中枢(口)側へ
- 排気量減少:末梢(肺)側へ
ハフィングでは、最大吸気により中枢(口)側へチョーキングポイントが移動し、一時的な息こらえで一気に末梢(肺)側へ移動することで気道内分泌物を捉えて排痰を可能とします。
咳嗽の深い吸気と圧縮の層が大事だと理解できましたでしょうか。
参考文献
武市梨絵:アクティブサイクル呼吸法(ACBT)と自律性排痰法
多田新太:アクティブサイクル呼吸法(ACBT)
玉木彰:まずは違いを押さえよう!呼吸理学療法の種類と目的
大倉和貴:アクティブサイクル呼吸法(ACBT)、自律性排痰法(AD)
まとめ
今回は排痰法の中でもACBTやADについて解説しました。
どちらも特別な器具を使用せずに自己で可能な手技であるため、臨床で幅広く使用されています。
気道内分泌物が多い患者のほとんどが適応となるため、呼吸リハビリテーションに関わるセラピストは覚えておきましょう。
呼吸リハビリテーションの勉強におすすめの著書はこちらから紹介しています。
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