びまん性軸索損傷(DAI)の症状や予後とは?MRIが注目されている

理学療法士

交通事故などによる高エネルギー外傷の患者を担当したことがありますか?

外傷性脳損傷ではさまざまは神経症状が出現し、なかには後遺症を認める患者も存在します。

今回は外傷性脳損傷のなかでも、びまん性軸索損傷について解説していきます。

この記事をよんでわかること

  • びまん性軸索損傷の概要
  • びまん性軸索損傷と就労の関係
  • びまん性軸索損傷の近年の研究報告

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びまん性軸索損傷とは

びまん性軸索損傷は外傷性脳損傷の1種に含まれる高エネルギー外傷で生じる病気です。

外傷性脳損傷をきたす外力は大きく2つに分けられます。

直接的加速:直撃損傷(打撲部位と一致)と反衝損傷(打撲部位と反対側)が生じます。眼窩部を中心とした前頭葉や側頭葉前方に多いことが特徴です。
回転加速:脳実質に剪断力が働き、神経細胞から伸びる神経軸索が断裂することで生じます。必ずしも頭部打撲を伴う必要がないことが特徴です。

びまん性軸索損傷は主には回転加速で生じ、浮腫や微小出血を認めます。

英語で「diffuse axonal injury」と表記され、DAIと略語で使用されるので覚えておきましょう。

外傷性脳損傷は頭蓋内血腫による外科的治療が必要な場合もあります。

びまん性軸索損傷の画像所見

びまん性軸索損傷は基本的に画像評価で診断されます。

基本的にCT画像評価では出血を認める場合は高吸収域を示しますが、びまん性軸索損傷の場合では意識障害が重篤であっても所見を認めないことが特徴です。

CT画像では映らないほどの異常が多数存在すると考えられています。

MRI画像検査では白質の損傷、CTでは映らないような小さな出血を確認することができます。

画像評価について勉強したい方は以下の著書がおすすめです。

びまん性軸索損傷とMRI画像については後述します。

びまん性軸索損傷の症状

びまん性軸索損傷に認める症状は多岐にわたります。

  • 重篤な意識障害
  • 高次脳機能障害
  • 自律神経障害

高次脳機能障害では、一般的には注意や遂行機能障害、エピソード記憶障害といった認知機能に低下に加えて、意欲などの行動や精神面の症状を認めます。

損傷部位は広範ですが、以下の変性疾患の症状とは異なります。

  • 失語症
  • 逆向性健忘
  • 視空間障害など

1度に記銘できる容量が少なかったり、特に意識していなかったエピソード記憶を忘れることが多いです。

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びまん性軸索損傷の治療法

びまん性軸索損傷に対する一般的な治療法はなく、対症療法や全身管理が一般的です。

脳浮腫が強く、二次的脳損傷を防ぐ目的で減圧開頭術を施行することもあり、実施後はヘッドギアによる頭部保護が必要になります。

状態に合わせてリハビリテーションも併用していきます。

びまん性軸索損傷の合併症

一般的には遷延性の意識障害を合併することが多いです。

他にも長期臥床によるさまざまな合併症を懸念されます。

  • 拘縮
  • 廃用
  • せん妄
  • 起立性低血圧

離床時期の準備段階より、合併症を最小限に抑えることが重要です。

びまん性軸索損傷と就労

栃木県の足利赤十字病院による、びまん性軸索損傷外来患者のデータを報告します。

びまん性軸索損傷群の損傷前の就業率は83.3%であったが、損傷後の一般就労率は41.7%であり、就業能力は大きく低下していると考えられています。

しかし、就労した症例でも全員が病前と同様に働けているわけではありません。

  • 部署移動(簡単な作業内容)
  • 同僚や上司の管理的な支援

神経生理検査であるウェクスラー成人知能検査(WAIS-Ⅲ)の結果では、処理速度を中心に、動作性認知、知覚統合、ワーキングメモリが低下したと報告されています。

さらに、エピソード記憶、遂行機能、配分性注意、意欲の低下も認めています。

びまん性軸索損傷患者では遂行に速度を要さない言語機能のみが保たれるが、それ以外の機能は低下しています。

日常生活で話しているだけでは認知機能は良好に思えるかもしれませんが、作業現場では就業能率が低下している可能性があることを知っておきましょう。

びまん性軸索損傷とリハビリテーション

びまん性軸索損傷患者に対するリハビリテーションにはどのようなものがあるのでしょうか。

時期に合わせた介入について解説していきます。

急性期

急性期では全身管理下で医師の指示のもと介入していきます。

実際には多発骨折や肺実質の損傷、臓器不全など重複障害を認める事例が多く、モニター管理下で離床から開始していきます。

離床後の移動手段を獲得するための予防的観念では、以下の訓練も併用していきます。

  • 可動域訓練(拘縮予防)
  • 筋力訓練(廃用予防)
  • 感覚入力(覚醒への貢献)
  • 環境調整(せん妄予防)

覚醒が得られてきたタイミングで段階的に移動手段を獲得していきます。

理学療法士は転倒に注意したバランス訓練、特に動的バランスに課題を付与する二重課題も実施していきます。

作業療法士や言語聴覚士は高次脳機能評価や高次脳機能障害に対する訓練介入を行います。

回復期

回復期では積極的にリハビリテーションを実施していきます。

  • 運動機能に対するアプローチ
  • 日常生活動作に対するアプローチ
  • 認知機能に対するアプローチ
  • 行動異常に対するアプローチ

びまん性軸索損傷患者は若年者も多く、復学や復職といった課題へ向き合うことが重要です。

公共交通機関の利用や金銭管理、タスクマネジメントなど、社会復帰へ向けて必要な能力の獲得を目標にしていきます。

びまん性軸索損傷の予後

最終的な予後は以下の要素により変動します。

  • 年齢
  • 脳損傷の程度
  • 記憶障害の重症度
  • 重篤意識障害(昏睡)の期間

脳の可塑性といった観点では受傷から6ヶ月までの期間が最も回復が見込める時期とされています。

しかし、6ヶ月以降もゆるやかに回復していく事例報告も散見されているため、主治医や担当セラピストと相談しながら経過を追っていくことが望ましいでしょう。

びまん性軸索損傷の研究報告

近年はMRI拡散強調画像から、白質の損傷部位や程度よりびまん性軸索損傷の症状をより詳細に検討することができるようになっています。

多くの研究では、MRI拡散強調画像における水の拡散異方性を調べることで、びまん性軸索損傷の認知機能障害と白質の関係を調べています。

水の拡散異方性:水がどの方向に拡散できるかという指数

びまん性軸索損傷による処理速度の低下には、以下の要因が関係していると報告されています。

  • 白質体積の減少量
  • 脳梁における水の拡散異方性の低下

脳弓の障害は連合学習や記憶の低下を認め、特に前頭葉の連絡部位の障害は遂行機能障害が生じることも関与しているのでしょう。

びまん性軸索損傷による本質は以下の2つだといった意見もあります。

  1. 脳に加わる剪断力で器質的損傷を受けた軸索が担っていた情報伝達回路の機能障害
  2. その軸索損傷に起因する神経伝達、伝導障害によって生じた二次的な機能障害

今後も可視化されつつある軸索損傷と、それに伴う認知機能障害が明らかになっていくと良いですね。

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参考文献

舩山道隆:外傷性脳損傷-記憶障害との関連について- MB Med Reha No.246:15-20,2020

宮内正晴:びまん性軸索損傷 BRAIN NURSING 2022 vol.38 no.1 106-107

まとめ

高エネルギー外傷で生じる外傷性脳損傷のなかでも、高次脳機能障害の後遺症を認めやすいびまん性軸索損傷について解説しました。

若年症例も多いため、復職や復学などの社会参加といった課題が重要になります。

専門家や地域と連携を図りながら、最大限に自立できるように支援していくことも重要です。

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