心不全患者では、心機能低下により代償機転が働くことで血圧が維持されます。
しかし、代償機転による生理的反応が長期化すると心臓のリモデリングが進行し、結果として予後が悪化するのという話は有名です。
基本的治療のひとつに薬物療法が挙げられますが、内服薬の種類や機序について知っている医療従事者は少ない印象であるため、今回は薬物療法について解説します。
この記事を読んでわかること
- 心不全に対する内服薬の種類や機序
- 期待されている心不全新薬
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心不全における代償機転とは
心機能が低下すると血圧が下がるため、血圧を維持するための生理的反応が起こります。
心不全患者に起こる代償機転は大きく分けて2つになります。
- 神経体液性因子(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン[RAA]系)
- 交感神経系
ひとつずつ解説していきます。
RAA系
血圧低下を感知すると、腎臓からレニンと呼ばれる酵素が分泌されます。
レニンはRAA系を調整する酵素であり、最終的には以下に示す効果により血圧が維持されます。
- 血管平滑筋の収縮
- 水分、Na+再吸収による体液貯留
RAA系について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。

交感神経系
心不全では圧受容体異常が生じ、交感神経活動は亢進して血圧が上昇します。
急性心不全時には重要な代償機転として働きますが、慢性化すると心臓に負担がかかり、心臓リモデリングを引き起こします。
心臓リモデリングの進展も生命予後を悪化させる危険な状態であるため、こちらの記事から理解を深めていただけると良いでしょう。

心不全の薬物療法

心不全の薬物療法 筆者作図
血圧低下による代償機転で生じる生理的反応については理解して頂けたでしょうか。
急性心不全時には良いですが慢性化すると生命予後を悪化させるため、適切な治療が必要になります。
これらの生理的反応に対しては、以下の内服薬が用いられてきました。
- ACE阻害薬
- ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
- MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
- 利尿薬
- β遮断薬
ひとつずつ解説していきますが、概要は上図の「心不全の薬物療法」を参考にしてください。
ACE阻害薬
ACEはアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換するだけでなく、ブラジキニンを分解する働きを持ちます。
ACE阻害薬の副作用で空咳を認めるのは、ブラジキニンが分解されずに増加することで気道を刺激してしまうからです。
しかし、血管拡張作用による降圧効果が大きいため、基本的には推奨される内服薬になります。
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
アンジオテンシンⅡは血管に収縮作用をもたらして血圧が上昇するため、その作用を抑制する薬剤になります。
ブラジキニンが増加しないので、空咳の症状が強い患者には良いですが、降圧作用はACE阻害薬と比較すると低いです。
MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
アルドステロンによる体液貯留や心筋の線維化を抑制する作用を持ちます。
利尿剤として使用する認識がありますが、実際には心保護を目的としていることが多いです。
利尿薬
過剰な体液貯留よる左心室壁の伸展は心臓リモデリングを進行させてしまうので、早期の体うっ血解除が必要になります。
種類によって作用機序が異なるので、採血結果より電解質バランスを鑑みて調整していきます。
β遮断薬
主に交感神経系に対して作用する内服薬であり、交感神経活性を抑制できます。
しかし、心収縮を抑制してしまうため、血圧低下などのリスクが生じます。
心不全の新薬について
近年、心不全に対して新薬が日本でも導入されました。
例えばACE阻害薬、MRA、β遮断薬が投与されているHFrEF患者は症状を有する場合は、新薬ARNIをACE阻害薬/ARBから切り替えることが推奨されています。
他にも、糖尿病治療薬であるSGLT-2阻害薬が心不全治療として注目されています。
最新の知見を取り入れていかないと、前進する医療に取り残されてしまうので日頃から勉強しておかなければいけませんね。
最新の心不全治療薬のアルゴリズムについてはこちらから

参考著書、資料
○ 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
- 2021年 JCS/JHFS ガイドラインフォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
- 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
まとめ
従来における心不全治療薬について解説しました。
新薬も登場していますが、副作用を認める場合には従来の内服薬で調整することは臨床でもしばしば見掛けます。
心不全の病態を理解しておけば薬物療法についての理解も深められるので、これを機に学んでいきましょう。
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