ICUせん妄と早期リハビリテーション!原因や治療も解説

理学療法士

せん妄は一般病棟においても臨床でしばしば経験することが多いでしょう。

ICUにおける重症患者に発症するICUせん妄(ICU-AD)については知らない方が多いのが現実です。

今回はICUせん妄の概要と、早期リハビリテーションにおける報告も踏まえて解説して行きます。

この記事を読んでわかること

  • ICUせん妄の概要
  • ICUせん妄とリハビリテーション

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ICUせん妄とは

ICUせん妄を述べる前に、まずはせん妄について解説します。

何らかの身体疾患や全身状態の変化に伴ってさまざまな精神症状を呈する臨床症候群

ICUにおける重症患者で起こるせん妄をICUせん妄と呼び、大きく以下の3種類に分けられます。

  • 過活動型
  • 低活動型
  • 混合型

各論についてはこの先で解説していきますが、ICUせん妄で多いのは圧倒的に低活動型になります。

過活動型

過活動型は脳内のドパミン過剰といった仮説が示されており、鎮静評価RASSが+1~+4を対象とします。

過活動型ICUせん妄の臨床症状は以下の通りです。

  • 易刺激性
  • 興奮、錯乱や不穏
  • 幻覚

鎮静評価RASSは日本呼吸療法医学会が推奨する鎮静スケールとなります。

日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン

人工呼吸器管理で鎮静下の患者が対象となるので、一般的な意識レベル評価とは異なることを念頭に置いておきましょう。

低活動型

低活動型はICUせん妄で圧倒的に数多くを占め、鎮静評価RASSが0 ~ -3(-2)を対象とします。

低活動型ICUせん妄の臨床症状は以下の通りです。

  • 注意の低下
  • 不活発
  • 不適切な会話
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せん妄と不穏の違い

ところで、せん妄と似た用語で不穏といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。

不穏とは基本的に落ち着きがなく、時に暴れてしまうなどの行動異常のこと

せん妄と不穏は重複する部分があり、せん妄が原因によって不穏が引き起こされることもあります。

基本的には不穏を引き起こしている原因を特定し、早急に対処することがポイントになります。

せん妄の評価

PADIS(米国集中治療医学会)ガイドラインでは、以下の優れた医療慣行に関する記述があります。

成人重症患者は妥当性のあるツールを用いて定期的にせん妄の評価が行われるべきである

それでは、そもそもせん妄の評価ツールを知っているでしょうか。

通常は米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)による診断基準を満たすことが求められますが、医療従事者に馴染み深いものではありません。

そこで、繁忙な臨床現場でも容易にせん妄をスクリーニングできるせん妄評価ツールを紹介します。

評価項目の詳細はJ-PADガイドラインより確認してください。

CAM-ICU

CAM-ICUは下に示す通り4つの所見で構成されており、所見1+2+所見3 or 4を満たすことでせん妄と判定することができます。

  1. 急性発症または変動性の経過
  2. 注意力欠如
  3. 無秩序な思考
  4. 意識レベルの変化

基本的には全ICU患者を対象としていますが、神経筋障害で必要なコミュニケーションが不可能な患者には難しいケースも存在します。

せん妄の有無を評価できる有用ツールにはなりますが、重症度の判定には不向きとなります。

評価項目の詳細は

ICU-7

鶴田良介:ICUにおけるせん妄対策の現状と未来への展望

ICU-7の詳細は上図で示していますが、PADISガイドラインでCAM-ICUを数値化して重症度別に分類するツールです。

  • 0-2点:せん妄なし
  • 3-5点:軽~中等度せん妄
  • 6-7点:重度せん妄

客観的数値を提示することで重症度判定だけでなく、経時的変化を追うことができます。

ICDSC

ICDSCは下に示す通り8つの所見で構成されており、4点以上でせん妄と判定することができます。

  1. 意識レベルの変化
  2. 注意力欠如
  3. 失見当識
  4. 幻覚、妄想、精神障害
  5. 精神運動的な興奮あるいは遅滞
  6. 不適切な会話あるいは情緒
  7. 睡眠・覚醒サイクルの障害
  8. 症状の変動

CAM-ICUとの最大の違いは点数による重症度判定を可能としている点です。

基本的には8時間ごとに定期的な評価を行い、経時的な変化を追っていくことができます。

せん妄の原因

せん妄はさまざまな要因で引き起こされるものであり、その原因は以下の3つに分類されます。

  • 直接因子
  • 準備因子
  • 促進因子

ひとつずつ解説してます。

直接因子

せん妄は先述した通り、何らかの身体疾患や全身状態の変化に伴ってさまざまな精神症状を呈する臨床症候群であり、多くの病態が直接的な原因となります。

  • 低酸素血症
  • 低血糖
  • 代謝障害や電解質異常
  • ショック

可能であれば上記症状の改善を早急に行うことでせん妄の改善に繋がります。

準備因子

準備因子は患者にすでに備わっている個々の要因であり、直接的な介入が困難な場合も多いです。

  • 認知症
  • せん妄の既往歴
  • アルコール歴
  • 手術

せん妄ハイリスク患者としてリストアップし、事前からの対策を練ることが重要となります。

促進因子

せん妄症状が出現し、その症状を遷延ないし増悪させる因子を促進因子と呼びます。

  • 身体的苦痛
  • 精神的苦痛
  • 感染症
  • 薬剤

せん妄を認めた場合には、症状を早期に改善するべく促進因子を取り除く必要があります。

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せん妄の治療

せん妄の治療は第一に直接因子と促進因子の除去を優先しますが、準備因子より事前にハイリスク患者としてスクリーニング、リストアップしておくことが重要です。

対応としては以下の2つに分類されます。

  • 薬理学的対応
  • 非薬理学的対応

ひとつずつ解説していきます。

薬理学的対応

せん妄発症前の予防薬、発症後にせん妄合併症を短縮する治療薬についてはガイドラインにおいても有効な薬物が提示されていません。

抗精神病薬のICUせん妄に対する効果は対症療法であり、本邦では保険適応ではないのが現状です。

急性不穏症状の対策としてハロペリドールの短期間使用の間に原因詮索に努めることが重要

QT延長やtorsades de pointesなどの不整脈など、重症患者に留意すべき副作用には注意しましょう。

QT延長によるtorsades de pointesについてはこちらから

TdP(torsades de pointes) QT延長症候群が引き起こす致死性不整脈
皆さんは、トルサード・ド・ポアント(以下:TdP)といった言葉を聞いたことがありますか。恐らく聞いたことがないといった人が多いでしょうが、生命の危機に関わる非常に危険な病気です。特に、循環器患者に関わる医療従事者は覚えておきましょう...

非薬理学的対応

薬剤を使用しないせん妄対策とは、環境調整によって患者ストレスをいかに取り除くということに尽きます。

患者がストレスを抱える一例は以下の通りです。

  • 概日リズムの乱れ
  • 患者家族との隔離
  • 状態不安定

つまり、患者の療養環境をできるだけ病前の日常生活に近付ける必要があるということです。

せん妄予防における環境因子の調整を次に示します。

  • 日中の十分な照度/夜間睡眠
  • 時計やカレンダー配置
  • 早期離床(リハビリテーション)
  • 家族面会
  • 酸素化の維持(SpO2≧95%)

理学療法士として着目したいことはリハビリテーションによる早期離床になります。

一定の要件を満たしていれば、2018年4月よりICUにおける早期リハビリテーションが診療報酬の対象となっており、セラピストの活動が注目されていると感じます。

せん妄とリハビリテーション

先述した通り、せん妄対策のひとつとしてリハビリテーションによる早期離床が重要となります。

人工呼吸器装着患者にはさまざまはトラブルにより睡眠障害を併発しやすいです。

  • 気管挿管によるストレス
  • アラーム音
  • 人工呼吸器の非同調

機械トラブルの解決だけでなく、呼吸リハビリによる排痰や良肢位のポジショニングは患者ストレスを軽減させることに繋がります。

重症急性心不全患者の早期離床とせん妄についても報告が挙げられています。

人工呼吸器装着中を含む急性重症心不全に対する早期心リハにより、2日以上持続するせん妄出現率が抑制され、せん妄持続日数を短縮する効果が示唆された。

玉城雄也et al:心臓集中治療室における急性重症心不全患者に対する早期心臓リハビリテーションの安全性と有効性の検討

リスク管理下における早期リハビリテーションの介入は、せん妄発生率を抑制する可能性が示唆されています。

特に準備因子によるリスト化された患者は注意して可能な限りリハビリテーションの介入をしていきましょう。

ICUで働くために役立つ専門書

より勉強したい方におすすめの著書です。

参考文献

鶴田良介:ICUにおけるせん妄対策の現状と未来への展望

布宮伸:せん妄

玉城雄也et al:心臓集中治療室における急性重症心不全患者に対する早期心臓リハビリテーションの安全性と有効性の検討

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まとめ

ICUで起こり得るICUせん妄について解説しました。

せん妄はさまざまな因子で発生しますが、その対策のひとつとしてリハビリテーションによる早期離床が挙げられます。

他にも環境調整で患者ストレスを軽減することも重要であり、他職種が連携してせん妄予防に努めることが重要となります。

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