皆さんは、トルサード・ド・ポアント(以下:TdP)といった言葉を聞いたことがありますか。
恐らく聞いたことがないといった人が多いでしょうが、生命の危機に関わる非常に危険な病気です。
特に、循環器患者に関わる医療従事者は覚えておきましょう。
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TdPとは
日本循環器学会や日本不整脈心電学会などを中心に「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」が発表されました。
そこでTdPについて記載されています。
TdP は自然停止する場合はめまい,ふらつきや失神(意識消失)発作として自覚されるが、自然停止せず心室細動に移行した場合はただちに心肺蘇生と電気的除細動が必要となる
TdPは心室細動の前駆的不整脈であり、突然死を招くことがあるため注意が必要です。
心電図波形の特徴としては、速く不規則なQRS波であり、心電図の基線を中心に捻れたような形をしています。
TdPの症状
TdPはいったいどのような症状を呈するのでしょうか。
1つずつ解説していきます。
心室細動
QT時間が延長すると、心筋は不安定になります。
活動電位が持続している間は不応期と呼ばれ、基本的に刺激に対して反応はしません。
しかし、再分極前後では相対的不応期と呼ばれ、強い刺激に反応するために心室性期外収縮(PVC)がT波に乗ると心室細動を起こします。
T波に重なるようにR波が出ることをR on Tといいます。
Adams-Stokes症候群
心拍数が150-300回/分になり、一時的に脳血流が低下して出現する一過性の失神発作をAdams-Stokes症候群といい、以下の症状が現れます。
・動悸
・息切れ
・めまいや失神
TdPの自然停止では上記の症状に留まりますが、心室細動に移行すると緊急性に処置が必要となります。
TdPの原因
TdPの引き起こす要因にはどのようなものがあるのでしょうか。
1つずつ解説していきます。
先天性QT延長症候群
二次的要因を認めないQT延長のことを、先天性QT延長症候群と言います。
先天性QT延長症候群は、遺伝性不整脈の診療に関するガイドラインでは以下のように説明されています。
先天性LQTSでは, 臨床診断がついた患者の半数以上で原因遺伝子上に変異が同定され,遺伝子診断は保険適用となっている。
その遺伝子型は以下の3つに大別されます。
・LQT1
・LQT2
・LQT3
先天性QT延長症候群の診断方法は、Schwartzらの診断基準が用いられ、以下の基準項目となります。
・心電図所見
・臨床症状
・家族歴
点数の合計により、3.5点以上が確定診断となり、1点以下は可能性が低いと判断されます。
後天性QT延長症候群
二次的要因を認めるQT延長のことをいい、主に薬剤が誘因となるものが最も多いです。
原因となる薬剤のほとんどは、Ikr遮断作用を有する特徴があります。
それでは、後天性QT延長症候群の原因となる薬剤について説明していきます。
抗不整脈薬
心筋イオンチャネルをブロックすることでQTが極端に延長されることで引き起こされます。
抗不整脈薬は循環器患者で多く使用されているため、服薬情報の把握が必要です。
例えば、ビソプロロールフマル酸塩は多くの適応を持ち、凡用性が高い薬剤になります。
・心室性期外収縮
・心房細動
・慢性心不全
後述するクラリスロマイシンとの併用に注意が必要な薬剤になります。
向精神薬
向精神薬は心筋に対して抗不整脈薬(Ⅰa群)に類似した電気的生理作用を有しており、活動電位時間の延長に伴い、QT時間も延長します。
用量依存性に重症化する傾向であり、大量内服や静脈注射による急速な血中濃度上昇が誘因になるといった報告が多いため、注意が必要です。
抗菌薬
TdPは併用薬の相互作用が要因で起こると言われており、抗菌薬の中でも特に、クラリスロマイシン(以下:CAM)との薬物相互作用についての報告が多いです。
CAMは呼吸器感染症やヘリコバクター・ピロリ菌の除菌など使用頻度が高く、抗不整脈薬を服用している患者にも使用されやすいため、注意が必要になります。
電解質異常
TdPは電解質異常によっても引き起こされます。
低カリウム血症
血中カリウム濃度低下のことをいい、以下の症状が原因となります。
・下痢
・嘔吐
・内服薬による副作用(βブロッカー、利尿薬)
カリウムの血中濃度が低下すると、QT延長や不整脈を引き起こします。
患者の症状からカリウム喪失がないか、採血結果と合わせて確認しておきましょう。
低マグネシウム血症
血中マグネシウム濃度低下のことをいい、以下の症状が原因となります。
・下痢
・低栄養
・内服薬による副作用(利尿薬)
低マグネシウム血症自体が、低カリウム血症を引き起こすとも言われており、結果として不整脈を認めます。
TdPの危険因子
TdPは薬剤による二次性QT延長症候群が多いと説明しましたが、他にも危険因子があります。
・女性
・加齢
・先天性QT延長症候群
・電解質異常
・併用薬
担当患者に該当する項目が多い場合は、TdPの危険性を考慮しながら介入する必要があります。
TdPの治療
TdPの所見を認めた場合には、どのような治療があるのでしょうか。
TdP急性期治療
自然に停止した場合はAdams-Stokes症候群を呈しますが、心室細動に移行した場合は以下の処置が必要です。
・心肺蘇生
・電気的除細動
・QT延長の治療(電解質補正[Mg,K]、ペーシング)
心室細動は重篤な不整脈であるため、迅速かつ適切な処置が必要になります。
TdP予防的治療
薬剤などによる二次性QT延長症候群には治療原則があります。
・QT延長要因の同定、除去
・原疾患の治療
TdP のリスクが回避されたと判断されるまでは、入院中は心電図モニタリングを継続していきます。
TdPとリハビリテーション
TdPを認める患者に対してリハビリテーションをするうえで最も大事なことは、リスク管理です。
介入にあたって確認しなければならないことがあります。
・安静度
・患者情報(電解質、薬剤)
・心電図所見
・臨床症状
急変リスクを認める病気であるため、医師が提示する安静度は絶対に確認しましょう。
その他にTdPを誘発する因子がないか、もしくは治療段階を知ることで負荷量の調整や治療プログラムの立案に役立ちます。
心電図波形を読み取ることは必須になりますが、自信のない方は以下の専門書をお勧めします。
この著書は心電図が全くわからない人でも基礎から学習することができるため、私も新人時代は活用していました。
冒頭は看護師の会話形式で始まり、イラストによる解説や問題提示により理解を深められます。
また、難易度別に出版されているので、より力をつけたい人にも参考になる書籍です。
・ベーシック編
・ステップアップ編
活字ばかりの専門書と違って読みやすい構造になっているので、心電図に苦手意識がある人でも取り組めますよ。
まとめ:TdPとは
TdPとは、薬剤による二次性QT延長症候群から心室細動へ移行することが多いです。
リハビリテーションの介入では、患者情報や臨床所見をモニタリングし、リスク管理に徹底する必要があります。
時間に余裕のある人は、心電図波形や薬剤についても勉強してみてください。
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