重症COVID-19肺炎患者のリハビリテーション治療

呼吸器

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文献紹介

聖マリアンナ医科大学病院で取り組んでいる、重症COVID-19肺炎患者に対するリハビリテーションについての報告です。

著者:聖マリアンナ医科大学リハビリテーションセンター 佐々木信幸 et al;

出版:Journal of CLINICAL REHABILITATION Vol.29 No.13 2020.12

聖マリアンナ医科大学病院

神奈川県を拠点とし、生命の尊厳を重んじ、病める人を癒す、愛ある医療の提供を理念に活動されている病院です。

超急性期病院として重症COVID-19患者のリハビリテーションもいち早く導入されました。

多数の文献を報告しており、筆者も参考にしています。

聖マリアンナ医科大学病院について知りたい方はこちらから↓

聖マリアンナ医科大学病院|特定機能病院・がんゲノム医療連携病院・災害拠点病院|聖マリアンナ医科大学病院
聖マリアンナ医科大学病院は、神奈川県川崎市の特定機能病院として、専門性を活かした先進的な医療の提供を行います。役割を果たすべく、高難度手術や高度の医療を提供およびその開発・研修を行っております。

はじめに

COVID-19はいまだにその詳細が判明していない新規感染症であり、本稿は2020年9月執筆における経験、知見について述べています。

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当院におけるCOVID-19感染状況

国内初のCOVID-19感染者は2020年1月16日に確認され、特に注目されたのが2月5日に感染を確認したダイヤモンド・プリンセス号になります。

聖マリアンナ医科大学病院では2020年2月11日からダイヤモンド・プリンセス号の患者を受け入れました。

当院はICU型病床群を多数有する三次救急病院であり、受け入れには多くの準備が必要でした。

・巨大な陰圧室の設置(最大収容11名

・2020/4/1 ECMO3名、人工呼吸器15名まで拡充

巨大遠隔監視モニター設置

・病室との連絡手段の確立(Skype/FaceTime

・医療者間における迅速な患者情報共有アプリJoin

COVID-19患者への対応は2020年8月末時点では、下に示す表の通りになります。

その内訳は、重症41名、中等症7名、軽症22名の計70名ですが、疑似症を含めるとその数倍の患者を対応しました。

当院におけるリハビリテーション治療対象

聖マリアンナ医科大学病院では基本的に、専用病棟に入室したECMOや人工呼吸器管理を要する重症例を中心にリハビリテーションを介入しています。

そもそも急性期病院の多くで療法士数は不足しており、医療資源の観点からもいくつかの工夫をしました。

・感染者と非感染者に対応するスタッフを分ける

・少人数のCOVID-19専従療法士のみで対応可能な範囲の設定

・医療資源の不足により、特に必要度の高い患者のみの対応

COVID-19感染者へのリハビリテーション治療の実際

重症COVID-19感染者に対しては、基本的に急性呼吸窮迫症候群(以下:ARDS)と同様の病態と考えられており、下に示す資料に準じてリハビリテーション治療を提供しました。

集中治療における早期リハビリテーション〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜

出典:日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会

不安定期

一般的なARDSであれば数日から1週間程度の不安定期を超急性期と呼びますが、重症COVID-19患者では2-3週間続くことも珍しくありませんでした。

不安定期におけるリハビリテーションを紹介していきます。

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腹臥位療法

全身状態が不安定な超急性期においては、酸素化の改善が第一優先です。

P/F値が100以下の時期は、さまざまな要因により酸素化が不十分になります。

・炎症性サイトカインストームによる両側肺のびまん性浮腫

・腹部臓器圧迫による下側肺の無気肺

・陽圧換気による上側肺の気腫性変化

上記問題点に対して必要になるのが体位交換、特に腹臥位療法になります。

腹臥位療法における効果です。

排痰体位ドレナージ作用

肺胞リクルートメント作用

重症COVID-19感染者においては肺胞リクルートメント作用が主であると考えられています。

成人COVID-19感染症に対するガイドラインでは、P/F値200未満の中等症・重症患者に対して12-16時間の腹臥位療法が推奨されています。

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廃用予防

重症COVID-19感染者では、ABCDEバンドルに則った早期抜管・早期離床は困難であり、長期間の鎮静管理から廃用性変化を生じやすいです。

その理由は以下が挙げられます。

・多量の漿液性分泌物による肺コンプライアンス低下

吸気努力性の亢進

・強い咳嗽によるVILIファイティング

強い異化亢進下における筋原性・神経原性変化としてICU-acquired weakness(ICU-AW)も伴います。

また、炎症性サイトカインによる血栓化傾向より、脳梗塞や静脈血栓塞栓症(VTE)発生リスクが増加。

関節や筋長に対するアプローチはそれらの発見や予防にも有益

筋量減少を防ぐことは不可能ですが、不動による筋短縮はADL制限に繋がるため、将来見込めるADLに応じて関節可動域訓練を行いましょう。

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安定期

P/F値が200以上となり、循環動態も落ち着いてきた時期を安定期と言います。

ここでは、安定期におけるリハビリテーションを紹介していきます。

モビライゼーション

早期モビライゼーション人工呼吸器不要期間を増加させると報告されており、急速に菲薄化する横隔膜を守るためにも身体動作を増やす必要があります。

モビライゼーションにおける注意点は以下の通りです。

・強すぎる筋負荷

エアロゾルリスク

関節運動は筋量増加ではなく、プレトレーニングといった意識で行いましょう。

また、人工呼吸器管理下の歩行訓練は咳嗽を誘発するので、エアロゾルリスク回避のために基本的には施行しませんでした。

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その他の調整

COVID-19感染症治療において考慮しなければならないのが、面会や行動制限です。

患者は長期間にわたって家族や友人と会えず、隔離されることからストレスが溜まりやすい状態と言えます。

こういったストレスフルな環境から見当識メンタルの低下を予防する取り組みが非常に大事です。

・ICUダイアリー

・ストレス発散様のプログラム

(クッションを殴るなど)

・FaceTimeを介したバーチャル面会

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医療資源、人的資源、リハビリテーション動線の問題

聖マリアンナ医科大学病院の1000床を超える規模に対する療法士数は以下の通りです。

・理学療法士(PT) 21名

・作業療法士(OT) 7名

・言語聴覚士(ST)  4名

2月時点ではCOVID-19患者数も少なく、PT1名で実施し、入院・外来リハビリテーション治療が遂行可能でした。

しかし、その後に患者が急増したため、訓練室を閉鎖して、動線を規定したうえで使用機材の消毒の場として活用しました。

専従PTの推移は徐々に増加し、重症COVID-19感染者に対しては祝祭日を含め毎日リハビリテーションが可能な環境を整えています。

・2020年4月22日 専従PT 2名

・2020年4月28日 専従PT 3名

・2020年5月4日  専従PT 4名

なお、嚥下障害に対してはiPadを用いた遠隔治療支援を言語聴覚士が行い、理学療法士看護師が治療を実践しました。

実際には、それぞれの病院の病床数・患者数・療法士数など、さまざまな要素を加味して人的資源を検討するべきであり、当院では夜間に腹臥位療法を取り入れることで対応していました。

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まとめ:重症COVID-19肺炎患者のリハビリテーション治療

超急性期の不安定な状態では、酸素化の改善が第一選択となりますが、見込めるADLを考慮して早期より関節可動域訓練も併用する必要があります。

現在でも医療・人的資源に対する問題を抱えている病院は多数あり、さまざまな要因を加味して検討していかなければなりません。

呼吸リハビリテーションについて学びたい人は、下の記事も参考にしてみてください。

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