今回は、ARDSなどの急性呼吸不全の人工呼吸管理における文献抄読です。
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文献紹介
文献:急性呼吸不全の人工呼吸管理
著者:昭和大学医学部集中治療医学講座 渡辺太郎 et al;
掲載先:MB Med Reha No.257:77-85,2021
人工呼吸管理の適応
呼吸不全とは、肺におけるガス交換が不十分のために、正常な動脈血ガス分圧を維持できない状態をいいます。
・PaO2≦60mmHgの低酸素血症
・PaCO2≧45mmHgの呼吸性アシドーシス(pH<7.35)
また、呼吸不全は時期により以下に分類されます。
・急性呼吸不全(短期間で急速に起きた場合)
・慢性呼吸不全(1ヶ月以上続く場合)
通常、急性呼吸不全は低酸素血症が先行して過換気となりやすく、PaCO2は正常か低下していることがほとんどです。
また、急性呼吸不全は生命の危機に直結しているため、以下の治療が選択されます。
・酸素療法(リザーバーマスク、ネーザルハイフロー)
・人工呼吸管理(酸素療法で不十分な場合)
さらに、人工呼吸は2つに大別されます。
・侵襲型 :気管挿管を要する
・非侵襲型:気管挿管を要さない
非侵襲型には陽圧式と体外式陽陰圧式がありますが、成人ではNPPVを用いることが一般的です。
NPPVの特徴は導入離脱が容易だということです。
適応は以下の疾患になります。
・急性心不全
・COPDの急性増悪
・免疫抑制患者の急性呼吸不全
しかし、NPPVの使用に執着することで気管挿管の時期を逸してしまう危険性があります。
その結果死亡率が増加してしまうため、NPPVで改善しない場合は速やかに侵襲型に移行しましょう。
他にも、正常な動脈血ガス分圧が維持されていても、以下の所見を認めれば準呼吸不全状態として人工呼吸管理の適応とする場合があります。
・多呼吸(呼吸数>30回/分)
・陥没呼吸、シーソー呼吸(奇異呼吸)
呼吸不全に陥らないように、過度の呼吸努力による代償を認めていないか、臨床所見からも確認すると良いでしょう。
しかし、本人の患者の事前意思表示が得られない場合は、患者背景や環境、家族の意思から考慮する必要があります。
人工呼吸管理の目的
呼吸不全の人工呼吸管理の目的は、酸素化・換気の改善です。
しかし、実際には1つの疾患に対して複数の病態が関与しているため、最も関与している原因を探ることが適切な管理に繋がります。
呼吸不全で認める低酸素血症には、4つの原因があります。
・換気血流比不均等
・シャント
・拡散障害
・肺胞低換気
ちなみに、高二酸化炭素血症の原因も低酸素血症とほとんど同じですが、拡散において違いがあります。
他にも、急性呼吸不全患者に対する人工呼吸管理では、研究が進むにつれて肺保護換気が主流になっています。
以前は大きな1回換気量で酸素化や換気の正常化を目指していました。
しかし、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)において、少ない1回換気量による肺保護換気が死亡率を低下させるといった報告があります。
生命維持に最低限必要な酸素化と換気の改善を目標とします。
これは、後述する人工呼吸による肺損傷(VALI)を念頭に置いた考え方となっています。
急性呼吸不全の病態
生理学的に急性呼吸不全の原因は4つ挙げられると説明しました。
ここでは、1つずつ解説していきます。
換気血流比不均等
肺胞換気量と肺循環血液量に不均等が生じている状態であり、2つのパターンに分類できます。
・血流>換気(血流に対して換気が相対的に少ない)
・血流<換気(換気に対して血流が相対的に少ない)
心不全やARDSにより肺胞内が空気以外で埋められた状態では血流に対して換気量が少なくなり、最終的にシャントになります。
また、肺塞栓症により血流が途絶えた状態では換気に対して血流量が低下し、最終的に死腔となります。
シャント
シャントとは、肺胞とのガス交換がなされないまま血液が心臓に還流している状態です。
・血流はあるが換気が全くない
・解剖学的に血流が肺胞を通らない
・酸素飽和度の相殺
例えば、無気肺により肺胞の含気がなくなってしまうとガス交換はされません。
他にも、肺動静脈奇形や卵円孔開大により血流が肺胞を通らない場合があります。
また、シャントによる酸素飽和度に差がある血流同士が合流することで、酸素飽和度が相殺されてしまうことも。
拡散障害
酸素が血液中に拡散する過程で障害が起きている状態であり、以下の疾患で認めることがあります。
・間質性肺炎による間質の肥厚
・心不全による間質の浮腫
先述しましたが、二酸化炭素の拡散能は酸素と比較して20倍とも言われているため、高二酸化炭素血症では間質病変による影響は受けにくくなります。
肺胞低換気
ガス交換に関与する肺胞換気量が減少した状態であり、低酸素血症や高二酸化炭素血症を呈します。
Ⅱ型呼吸不全に分類され、原因としては以下のものです。
・中枢神経障害
・薬剤(オピオイドなど)
・神経筋疾患
・肺、胸郭の異常
急激な酸素投与によるCO2ナルコーシスに注意する必要があります。
急性呼吸不全の酸素化と換気の目標
ここでは、急性呼吸不全における酸素化と換気の目標について説明していきます。
酸素化の目標
チアノーゼ性先天性心疾患を除き、PaO2≧60mmHg(SpO2≧90%以上)を目指しますが、必要以上に高いPaO2は避けましょう。
その理由は次で説明します。
高濃度酸素について
高濃度酸素の使用は、以下の症状を引き起こします。
・組織学変化や気道、肺の傷害
・血管収縮作用(高酸素血症)
・組織灌流の低下
近年では、新たな目標値を探る研究が報告されてきています。
必要以上の高濃度酸素の投与は避けましょう。
換気の目標
急性呼吸不全の換気目標はPaCO2の正常化ではなく、正常なpHの維持になります。
具体的にはpHは7.4±0.1ですが、後述する肺保護戦略では下限pHを7.25まで許容します。
Permissive hypercapnia
急性呼吸不全における肺保護戦略の考え方として、「Permissive hypercapnia」と呼ばれるものがあります。
1980年代にニュージーランドのHicklingさんのグループが提唱しました。
肺の換気条件を下げることで1回換気量を減少させ、肺の加圧と過膨張による損傷(VALI)を防止するため、ARDSの死亡率が低下すると言われています。
低二酸化炭素血症
肺胞過換気による呼吸性アルカローシスによって生じます。
低二酸化炭素血症は脳血管収縮により脳血流を減少させ、虚血リスクを増加させます。
そのため、人工呼吸管理をするうえでは、医原性の過換気に注意しましょう。
まとめ:急性呼吸不全の人工呼吸管理! 呼吸不全の病態編
急性呼吸不全のおける病態を中心に説明しました。
低酸素血症といっても原因はひとつではなく、複数が関与している場合もあるため、病態の把握が適切な管理となります。
ARDS患者では、酸素化や換気の改善ばかりに目を向けるのではなく、人工呼吸器肺損傷(VALI)を防ぐ肺保護管理の視点を持つようにしましょう。
呼吸リハビリテーションについて学びたい方は以下のリンクを参考にしてください。
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