こんにちは、理学療法士のけいです。
皆さんは、敗血症という病気を知っているでしょうか。
今回は敗血症における病態理解と、リハビリテーションにおける歩行獲得因子について、文献を参考にしながら解説していきます。
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文献紹介
Title:救急ICUで理学療法を受けた敗血症患者の自立歩行獲得に影響する要因
著者:倉敷中央病院 リハビリテーション科 沖 圭祐
掲載:倉敷中病年報 83巻 2020
敗血症とは
敗血症は次のように定義されています。
その死亡率は40%程度であり、長期的な予後が不良な病態とされています。
特に年齢は死亡率の予後不良因子とされており、死亡者数の約80%が65歳以上の高齢者です。
最近では急性期管理が進歩していても、新しい定義が認められて身体機能が低下する患者が存在します。
- PICS(Persistent inflammation immunosuppression catabolism syndrome)
- ICU-AW(Intensive care unit-acquired weakness)
これらについて簡単に定義を説明します。
PICS(集中治療後症候群)
ICU退出後に一定の割合で身体・認知機能、メンタルヘルスに後遺症が残る総称をいいます。
それは患者だけに留まらず患者家族までを対象としており、場合によっては家族へのサポートが必要です。
PICSの予防には、以下のものが挙げられます。
- 早期リハビリテーション
- ABCDEFGHIバンドル
- 認知療法
早期リハビリテーションにはPICSを予防する可能性が示唆されています。
PICSについてはこちらから
ICU-AW
ICUの重症患者に合併する神経筋の機能障害を呈する症候群になり、さらに2つの病態に分けられます。
- 重症疾患多発神経障害:CIM(Critical illness myopathy)
- 重症疾患筋障害 :CIP(Critical illness polyneuropathy)
なかには混合型(CINM)も存在し、特徴としては急性の左右対象性やびまん性に症状を認めます。
ICU-AWについてはこちらから
敗血症の診断基準
敗血症の診断基準は以下の通りです。
続いて、SOFAについて説明していきます。
SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)
SOFAとは、呼吸や循環などの多臓器障害を簡便に点数化して重症度で分類する評価法です。
詳細項目は以下の画像になります。
続いて、敗血症によって引き起こされる敗血症ショックの診断基準も合わせて覚えておきましょう。
ちなみに、SOFAスコアはICUでは評価しやすいのですが、他では不便であるため簡便なqSOFAを用い、SOFAスコアとセットで診断されます。
qSOFA(Quick Sequential[Sepsis-related] Organ Failure Assessment)
以下に示すのがqSOFAであり、これを満たす(qSOFA≧2点)場合には敗血症を強く疑います。
これらの評価を用いて、敗血症・敗血症ショックの診断アルゴリズムを進めていきます。
敗血症の症状
敗血症は感染症から全身に症状が出現すると言われており、先述した通りPICSやICU-AWを合併しやすいです。
敗血症に認める症状をひとつずつ解説していきます。
多臓器不全
サイトカイン産生による炎症性反応により、最初は動脈が拡張して末梢動脈抵抗が減少し、心拍出量は増加(warm shock)。
しかし、その後は血管作動性伝達物質(メディエーター)によりシャントが形成され、低灌流を引き起こすことで多臓器不全に陥ります。
筋力低下
敗血症患者の筋力低下には、以下の原因で起こるとされています。
- 炎症性サイトカインの筋局所増加
- フリーラジカルの発生
- 蛋白質分解経路の活性化
- 活動量低下による廃用性変化
特には敗血症重症患者では、蛋白質の分解・合成のアンバランスが生じ、蛋白質出納がマイナスになるとされており、異化作用による筋繊維を3-4%減少させてしまいます。
さらに、ショック状態の救命により臥床を強いられる場合には、筋の廃用性変化を生じやすく、入院前に活動量が低下している患者ではより顕著になります。
低栄養
炎症性サイトカインの増加によりアルブミンの大量消費が起こり、低栄養を引き起こします。
低栄養とは蛋白質が不足した状態であり、骨格筋の筋蛋白質合成が低下して骨格筋量が減少します。
ADL障害
PICS、ICU-AWの合併により活動量が低下してしまうとADLに介助を必要とします。
歩行はADLにおいて必要な動作があり、障害されると自宅退院が困難になってしまうため、発症早期からの予防が大事です。
敗血症の管理
敗血症の病態管理・予防としておこなわれていることを挙げます。
- 原疾患の治療
- 敗血症、多臓器障害の管理
- 血糖管理
- ステロイド、筋弛緩薬、鎮静薬の使用を最小限
これらの管理と並行して、早期離床が重要になります。
早期離床やベッドサイドからの積極的な運動には、以下の効果がある可能性が示唆されています。
- 人工呼吸器離脱の促進
- ICU在室、在院日数短縮
- QOL、ADL改善
先行研究でも早期離床は歩行を中心とした基本動作やADLの自立に関与していると報告されています。
敗血症の理学療法(リハビリ)
敗血症ショックから退院までに辿る経過はさまざまであり、時期に合わせた介入が必要になります。
ここでは、主に以下の3つにわけて説明していきます。
- 人工呼吸器管理
- 一般病床
- 退院調整時期
ひとつずつ解説していきます。
人工呼吸器管理
敗血症ショックに陥り人工呼吸器管理中では、以下のプログラムを導入します。
- 廃用予防
- 拘縮予防
- 排痰援助
- コンプライアンスの維持
離床開始基準を満たしている場合には離床を進めていきますが、鎮静化されている場合も多いので主治医と良く相談しましょう。
意識レベルについては鎮静スケール(RASS:Richmond Agitation-Sedation Scale)を参考にします。
RASSにおける離床基準は以下の通りです。
- -2≦RASS≦1
- 30分以内に鎮静が必要であった不穏がない
一般病棟
人工呼吸器離脱後、症状が安定して一般病棟に転棟してきた場合には、次のプログラムに移ります。
- 積極的離床
- 筋力増強
- ADL訓練
救急ICU病棟で廃用を合併する患者は多く、ADL獲得に必要な筋力や動作能力を獲得することが必要です。
病棟と連携して日中の離床時間を延長し、リハビリでは補助具を使用して立位や起立・歩行訓練へ移行していきます。
入院前ADLの早期獲得が難しいと判断される場合は、回復期病院など転帰先についてあらかじめ相談するようにしましょう。
退院調整時期
入院前ADLと現状のできるADLの乖離がないか確認します。
家族の協力体制や家屋環境から必要なサービス、補助具の導入を提案することもセラピストの役割です。
必要に応じてカンファレンスの開催やリハビリ見学による指導を実施します。
本研究の背景
それでは、本文献の研究背景について説明していきます。
テーマは理学療法を受けた敗血症患者で歩行自立獲得に影響する要因について検証したものです。
研究の対象
本研究の対象になります。
期間:2013年4月~2016年6月
対象:救急ICUで理学療法を受けた敗血症患者109名
除外項目:高齢障害者の日常生活自立度 ランクB/C、入院中の死亡例、データ欠損患者
研究の調査項目
研究における調査項目を患者背景とPT開始の過程で分けて画像に示しました。
この画像は私が文献を参考に作図したものとなります。
研究結果
今回の検討では、敗血症患者109例における歩行獲得の割合は以下の通りになります。
歩行自立群 :62例
歩行非自立群:47例
また、2群間に有意差を認めた項目は以下に示します。
- 年齢
- 初回PT介入時の端座位保持率(59.5%)
- 入院から歩行訓練開始までの日数(8.0日)
- PT開始時のGCSスコア(10点)
- 退院時血清アルブミン値(2.6g/dl)
- SMRC(40点)
- PT開始時のFIM認知項目(11.0)
端座位保持率に関しては定義が記載していなかったので、恐らく自立度の割合を示しているものだと解釈しています。
GCSはE(開眼)とM(運動機能)の合計点で、どちらも最大の10点でしたが、非自立群では8-10点とややばらつきを認めました。
客観的な指標として使いやすいのは、歩行開始の日数、血清アルブミン値、SMRC、FIMだと本研究で感じました。
研究の考察
非自立群はPT開始時より筋力低下を認め、歩行開始に時間を要していたことや、退院時の血清アルブミン値が低下している傾向にありました。
このことから、自立歩行に影響する因子は以下の3つが関与していると考えられます。
- 年齢
- 筋力低下
- 低栄養
低アルブミン血症の基準は3.5g/dl未満であるとされており、骨格筋の蛋白質合成が低下することで骨格筋量が減少し、SMRCは低値を示したと考えられます。
また、加齢による消化吸収能力や臓器の予備能低下も影響し、多臓器不全に至ると歩行訓練開始までに時間を要し、歩行自立の獲得が困難になるのでしょう。
また、筋力維持のためには、PT以外の時間でも実施できるベッド上プログラム導入も検討が必要でしょう。
参考著書
敗血症患者はショック状態に陥ると、人工呼吸器管理や循環作動薬といった救命措置が必要となり、状態に合わせた介入が必要になります。
そこで、主にICU救急患者のリハビリを進めるうえで参考になる著書を紹介していきます。
早期リハビリテーションの実践
ICUを中心に早期リハビリテーションについてまとめてあり、各論や事例を通して解説してあるのでおすすめしています。
神経筋電気刺激療法や栄養管理・ECMOなど超急性期に必要な項目も記載されているので、興味ある方はぜひ手に取ってみてください。
呼吸音聴診ガイドブック
人工呼吸器管理の患者では排痰援助の技術が必要になり、当然聴診による評価をしなければなりません。
本書は聴診テスト・復習テスト・Web付録など、呼吸音に対する理解を深められる工夫がされています。
呼吸音の聴診に自信を付けていきたいという方は参考にしてみてください。
Dr.竜馬の病態で考える人工呼吸器管理
人工呼吸器管理の患者では、呼吸状態によって設定を変更していきます。
リハビリ中にモニタリングされているデータを読み取る力は必要ですが、そもそもなぜその呼吸管理になっているかを知らなければいけません。
この著書は医師が人工呼吸器の設定について解説しているので、理解を深めるためには最適な1冊です。
リハビリテーション栄養ハンドブック
敗血症では低栄養を認め、蛋白質の不足は骨格筋量を減少させてしまうので、負荷量の設定が重要になります。
近年ではリハビリテーション栄養といった言葉も認知されてきているので、興味ある方は一度勉強してみましょう。
まとめ
敗血症における歩行自立獲得の要因について検討した文献を交えて解説しました。
歩行自立獲得には歩行訓練開始日を早める必要があり、リハビリ開始時の筋力を確認する必要があります。
安全を確保しながら早期離床に努め、ADL障害が懸念される場合はすぐに退院調整をしましょう。
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