心不全患者を担当していると医師のカルテにNYHAといった用語を目にするでしょう。
実は心不全患者の重症度判定に用いられる分類です。
今回はNYHA心機能分類について解説していきます。
この記事を読んで分かること
- NYHA心機能分類の概要
- 心不全ステージの対比
- リハビリテーションの注意点
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NYHA心機能分類とは
ニューヨーク心臓協会が提唱しているものであり、日常生活の身体活動能力を基準に重症度を分類したものです。
読み方は2通りであり、「エヌワイエッチエー」か「ニーハ」ですが、私は呼びやすい後者を選択しています。
心不全の進展ステージは基本的に不可逆であり、前のステージに戻ることはありません。
しかし、NYHA心機能分類では治療が奏効することで前の段階に戻ることが可能といったことが特徴です。
NYHA心機能分類を以下の表にまとめました。
Ⅱ度の範囲が広すぎるといったことから、さらに以下のように細分化されます。
- ⅡS度 :身体活動に軽度制限があるもの
- ⅡM度:身体活動に中等度制限があるもの
しかし、これらの評価は定量性・客観性に乏しいことが欠点であり、病歴が長い患者では自らの活動を制限していることがあるので注意が必要です。
NYHA心機能分類と心不全進展ステージの対比
心不全進展ステージは症状がない状態も含めて分類しており、NYHA心機能分類とは厳密な概念が異なりますが、概ね上図のように対応します。
stageC以降は治療抵抗性の心不全患者として注意が必要であり、薬剤療法についても確認するようにしましょう。
従来の心不全治療や新薬の記事はこちらから
NYHA心機能分類Ⅳレベルでは、補助心臓がないと2年以上の予後は難しいとされています。
NYHA心機能分類と各評価項目
NYHA心機能分類は簡便で有用な評価にはなりますが、判断の基準となる活動内容がはっきりしないといった欠点があります。
そのため、NYHA心機能分類は他の評価と組み合わせて患者を評価することが多いです。
ここでは、NYHA 心機能分類と各評価の関係性について解説していきます。
6分間歩行
運動耐容能の評価でよく用いられるものとして6分間歩行が挙げられます。
この6分間歩行で得られた歩行距離とNYHA心機能分類は良好に相関し、予後予測にも有用であると報告されています。
さらに、同一患者において6分間歩行の改善度が治療効果や予後良好の指標になることも報告されているため、可能であれば評価することを推奨します。
SAS
SASは身体活動能力指数であり、質問票を用いて患者の症状が出現する最小運動量を割り出すことができます。
21の質問については、「はい」「いいえ」「わからない」で回答し、答えが初めて現れた項目の運動量(METs)がSASとなります。
NYHA心機能分類との対比表をガイドラインより引用しているので参考にしてください。
各質問項目とNYHA心機能分類の関係性を以下に挙げます。
○NYHA心機能分類 Ⅰ~ Ⅳ
1. 夜、楽に眠れますか?(1METs以下)
2. 横になっていると楽ですか?(1METs以下)
3. 1人で食事や洗面ができますか?(1.6METs)
○NYHA心機能分類 Ⅰ~ Ⅲ
4. トイレは1人で楽にできますか?(2METs)
5. 着替えは1人でできますか?(2METs)
6. 炊事や掃除ができますか?(2~3METs)
7. 自分で布団を敷けますか?(2~3METs)
○NYHA心機能分類 Ⅰ~ Ⅱ or Ⅲ
8. ぞうきんがけはできますか?(3~4METs)
9. シャワーを浴びても平気ですか?(3~4METs)
10. ラジオ体操をしても平気ですか?(3~4METs)
11. 健康な人と同じ速度で平地を100〜200m歩いても平気ですか?(3~4METs)
○NYHA心機能分類 Ⅰ~ Ⅱ
12. 庭いじり(軽い草むしりなど)をしても平気ですか?(4METs)
13. 1人で風呂に入れますか?(4~5METs)
14. 健康な人と同じ速度で2階まで昇っても平気ですか?(5~6METs)
15. 軽い農作業(庭掘りなど)はできますか?(5~7METs)
○NYHA心機能分類 Ⅰ
16. 平地で急いで200m歩いても平気ですか?(6~7METs)
17. 雪かきはできますか?(6~7METs)
18. テニス(または卓球)をしても平気ですか?(6~7METs)
19. ジョギング(時速8km程度)を300~400mしても平気ですか?(7~8METs)
20. 水泳をしても平気ですか?(7~8METs)
21. 縄跳びをしても平気ですか?(8METs以上)
より詳細を確認したい方は難病情報センターの資料をどうぞ
%最高酸素摂取量
個人が摂取できる単位時間あたりの酸素摂取量の最大値を最高酸素摂取量(以下:Peak VO2)とし、年齢別標準値に対する予測率を%最高酸素摂取量(以下:%Peak VO2)といいます。
心配運動負荷試験で得られるPeak VO2が14mL/kg/分未満の症例は生命予後が不良であり、特に10mL/kg/分未満の症例は特に要注意です。
SASで説明した「心不全における運動耐容能指標の対比の目安(図)」で示したように、NYHA心機能分類Ⅲが%Peak VO2の40~60%に該当するので、Ⅲ~Ⅳレベルの症例は注意しましょう。
リハビリテーション
NYHA心機能分類について理解が深まったと思いますが、リハビリテーションにおける注意点を知っていますか。
まずにリハビリテーションの適応について、ガイドラインから引用します。
慢性心不全患者の心臓リハビリテーションにおける運動療法の適応は、少なくとも過去3日以内で心不全の自覚症状および身体所見の増悪がないこと、および過度の体液貯留や脱水状態でない安定期にあるコントロールされた心不全で、NYHA心機能分類Ⅱ~Ⅲの症例である
引用:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
NYHA心機能分類Ⅳの患者は安静時より自覚症状を認める状態であり、ガイドラインにおいても相対禁忌とされています。
植え込み型除細動器(ICD)や心臓再同期療法(CRT)などの植え込みデバイス患者においても、NYHA心機能分類の改善といった報告があることからアウトカムの指標として注目しても良いでしょう。
植え込みデバイス患者のリハビリテーションについてはこちらから
NYHA心機能分類と疾病管理
NYHA心機能分類を考慮した疾病管理について解説していきます。
日常生活動作(METs)とは別に、患者に聞かれたことを想定して知っておくと良いでしょう。
旅行
航空機による移動や、高地・高温多湿の地域への旅行には注意が必要です。
長時間の航空機旅行ではNYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳの重症患者では増悪リスクが高いことから推奨できません。
航空機旅行が必要であるのであれば、以下の注意点を守って下さい。
- 軽い体操
- 飲水量の調節
- 利尿薬の適宜使用
- 旅行時の食事内容
- 気候変化による水分バランスへの配慮
旅行となると危機管理が不十分になってしまうことが多いので、同行者も意識して関わりを持ってください。
妊娠
心不全を有する妊婦は、その症状が強いほど死亡率が高いと報告されています。
そのため、NYHA心機能分類がⅢ以上の女性には妊娠しないように指導し、たとえ妊娠してしまっても早期の中絶を推奨します。
心不全治療薬の多くは妊娠中の投与が禁忌であることからも、妊娠を推奨しない理由が分かりますね。
入浴
基本的に慢性心不全患者では入浴は禁忌ではありません。
しかし、熱いお湯は以下の理由で症状を増悪させる可能性があります。
- 交感神経緊張
- 深い入浴による静水圧増加
- 静脈環流量、心内圧増加
適切な入浴方法を次に示します。
- 温度は40~41度
- 時間は10分以内
- 鎖骨下までの深さで半座位浴
入浴について指導できているコメディカルは少ないので、みなさんは説明できるようにしましょう。
ワクチン摂取
特に呼吸器系感染症は心不全増悪のリスクになることは患者にも説明するべきです。
- インフルエンザ
- 肺炎球菌
上記に関しては病因によらずワクチン摂取を受けることが望ましいとされています。
性生活
心不全治療薬であるβ遮断薬は副作用として性機能障害を有し、心不全患者の60-70%に勃起障害を認めると報告があります。
また、性行為による運動強度はガイドラインでは以下の数値としています。
絶頂期前:2-3METs
絶頂期 :3-4METs
心不全患者は性行為による症状の悪化や突然死の危険性があるため、程度に応じた指導が必要になります。
また、勃起障害治療薬の服用については医師に相談するようにしましょう。
疼痛
NYHA心機能分類が重症なほど疼痛の出現頻度は高いとされており、以下の原因が考えられますが、実際は症状が多様で同定が難しい場合も多いです。
- 併存症
- 重症心不全
- 精神的ストレス
疼痛コントロールに努めたいところですが、重症心不全には鎮痛薬である非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は基本的に禁忌とされています。
重症心不全とNSAIDsの関係についてはこちらから
非麻薬性鎮痛薬としてアセトアミノフェンが推奨されますが、疼痛コントロール不良の場合はオピオイドの追加投与が考慮されます。
循環器疾患におすすめ著書
循環器患者を担当したときにおすすめの著書は下の記事をご覧ください。
参考資料
日本循環器学会 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
日本循環器学会 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版)
白石裕一:心不全患者に対しての包括的心臓リハビリテーション
まとめ
心不全の重症度判定として用いられるNYHA心機能分類について解説しました。
NYHA心機能分類は判断の基準となる活動内容が曖昧であり、他の評価と組み合わせることで患者像を明確にすることができます。
日常生活だけでなくQOLに関しても注意点があるので、わからないことは医師に確認しましょう。
セラピスト関連の記事はこちらから
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